人の縁をはじめ、病気、肥満、悪癖など、意のままにならない“不幸”から逃れたい──そんな切実な思いを抱え、最終手段として神仏に頼ろうと、“縁切り寺社”を訪れる人は多い。現代日本人は、一体どんな悩みを抱えているのか、参拝者たちに話を聞いた。
西の縁切り神社の代名詞ともいうべき古社
【京都】安井金比羅宮
住所:京都府京都市東山区東大路松原上ル下弁天町70
京都の縁切り神社というと、多くの人がその名をあげるのが安井金比羅宮だ。本殿に祀られているのは崇徳天皇。この帝が讃岐に流刑になった際、金刀比羅宮で一切の欲を断ち切って籠もったことから、縁切りの祈願所として信仰されてきたという。
記者がここを訪れたのはある晴れた週末の朝。すでに境内は参拝する人で溢れ、特に20~30代の若い女性が目立つ。皆のお目当ては、縁切り・縁結びにご利益があるとされる“縁切り縁結び碑”。30人以上の行列ができていた。
祈願の方法は、まず本殿に参拝する。次に“形代”に切りたい縁や結びたい縁などの願い事を書く。これを持って四つん這いになり、縁切り縁結び碑の下部にあいている穴をくぐる。表からくぐることで悪縁を切り、次に裏から表へくぐって良縁を結ぶ。最後に形代を縁切り縁結び碑に貼りつける。
境内の雰囲気は明るく、この風変わりな“儀式”を楽しもうと多くの観光客でにぎわう。行列に並んでいたA子さん(38才)は名古屋からひとりで来たという。
「職場の先輩のパワハラがひどくて……。最初はやさしかったんですが、先輩が好意を寄せていた男性上司と私が仲よく話しているのを見られてから、いじわるをしてくるようになったんです。上司からの指示を伝えてもらえなくて、一方的に責められたこともありました。人事部にも相談しましたが、人手が足りないということで異動も叶わない。会社を辞めることも考えましたが、自分の好きな仕事だったし、コロナ禍の中で転職できるかも不安で……。それで祈願に来ました。もう、神頼みしかなくて……」
A子さんの顔には疲労感がにじみ出ていた。「明日も仕事なのですぐ帰ります」という彼女の背を見守りつつ、神の加護があることを祈った。
女性の守護神として淀殿も信仰していた
【大阪】生國魂神社内鴫野神社
住所:大阪府大阪市天王寺区生玉町13-9
神社の格式の中では最高位の“官幣大社”に位置づけられた古社・生國魂神社。地元では“いくたまさん”などと呼ばれて親しまれているこの神社の最奥に、女性の守護神として崇められてきた小さな神社がある。それが、縁切りのご利益がある鴫野神社だ。豊臣秀吉の側室・淀殿も崇敬していたといわれている。