ライフ

かつて暴力団組員にとって「10円玉」が自分の身を守るために必須だったワケ

1972年、東京の地下鉄に設置されていた赤い公衆電話(AFP=時事)

1972年、東京の地下鉄に設置されていた赤い公衆電話(AFP=時事)

 警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、携帯電話が一般的ではなかった時代に起きた暴力団組員の定時連絡をめぐるトラブルについて。

 * * *
「10円玉がなくて、指を飛ばしたヤツはけっこういる」

 そう話す現役の暴力団幹部A氏に、元暴力団組員B氏が頷いた。ガラケーと呼ばれる携帯電話が普及する以前、電話が原因で小指を失うことになったヤクザは1人や2人ではなかったという。

「この数十年、携帯電話の進歩はヤクザ稼業の生活を大きく変えた」とA氏。「ムショから出た時、公衆電話でプリペイドカードが使えるようになっていて、びっくりした」と笑いながら、昔の組事務所の様子を語った。

「当時、組事務所に引かれていた回線は1本。電話の加入権は高かったから、大きな組でない限り1本だった。今のような賢いビジネスホンはなかったから、切り替えられる電話機もないし子機もなかった」

 組事務所に電話がかかってくると、電話番をしていた若い衆が黒電話片手に5mの長いコードを引っ張って組長の所まで持っていっていた。

「組長に電話の所まで、いちいち来てもらうわけにはいかなかったからね。子機が出た時は”すげぇな”と思った」(A氏)

 組員はこの黒電話からかけることはできなかった。組事務所の電話は受け専用だったのだ。もちろん組長は電話をかけることができるが、組員はこの電話を使うことができない。そのためA氏の組事務所には、赤い公衆電話が置かれていたという。「外に電話をかける時は、組員はその公衆電話を使っていた。だから上にはいつも、すぐ電話をかけられるよう10玉が数枚のっていた」(A氏)。

 個々人が電話を持つようになるまで、外から事務所への連絡手段も公衆電話が中心だった。車に搭載された移動電話やショルダー型の携帯電話はあったが、数十万円の保証金に、月々何万円もの基本料が必要と高額。おまけに通話料は1分100円ほどかかった。

「こういう所に見栄を張るのがヤクザでね。格好つけて携帯電話をゴルフに持っていったが、話しているとバッテリーはあっという間になくなり電池切れの音がピーピー鳴った。通話料金は高いし電話本体は重い。これは使えねぇと思った」というB氏。充電を繰り返したバッテリーは劣化が早く、A氏も使い勝手が悪かったと言う。

「携帯を持っていても、公衆電話を探す始末さ。当時、ヤクザは組事務所に定期連絡をしなければならなかった。それしか互いに連絡方法がなかった。絶えず10円玉を持っているようにしたが、小銭が手元にない時もある。小銭があっても公衆電話が見つからない時もある。そうなると焦って走り回るしかなかった」

関連キーワード

関連記事

トピックス

渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》週刊ポストが1年前に託された最後のメッセージ「私の人生は野球に始まり、これからも常に野球とともにあります」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは(イメージ)
中受で超難関中高一貫校に入学した「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは「腹痛と下痢を繰り返し、成績は最下位クラス…」《エリートたちの発達障害》
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン