女優・長澤まさみ(35)。デビューから20年余、その魅力はどんどん増しているのではないか。変幻自在の演技を見せる彼女はいかにして国民的女優への道を歩んできたのか。「東宝シンデレラ」グランプリ受賞後、女優としての経験を積み、転機となる初主演映画と巡り合う──。【前後編の前編】
苦悶の表情を浮かべながら、胃の中から逆流してくるものをペットボトルの水で流し込む。
「大丈夫だから」
そう気丈に言い放つ姿から、危うさとともに意志の強さを感じさせる──。
長澤主演のドラマ『エルピス─希望、あるいは災い─』(フジテレビ系)が異彩を放っている。冤罪がテーマの社会派ドラマで、TBSに在籍していた佐野亜裕美プロデューサーが6年前に企画するもセンシティブな内容ゆえに局のGOサインが出ず、関西テレビに移籍して実現させたことでも話題を呼んでいる。
長澤はスキャンダルでエースの座を追われた女子アナ・浅川恵那を熱演し、連続少女殺害事件で死刑の確定した男が冤罪ではないかと取材に奔走する。ストレスですぐに吐き気を催してしまう摂食障害を患っており、健康的なイメージの強い長澤の激ヤセぶりに驚いた視聴者も多いだろう。
長澤が初主演した映画『ロボコン』(2003年)でメガホンを握った古厩智之監督は『エルピス』での演技を高く評価する。
「彼女が演じる“一生懸命。だけど不健康な女子アナ”は、失敗したら痛々しくて見ていられない役どころだと思います。非常に難しいはず。だけど彼女はまったく恐れていない。これまでよりさらに踏み込んだ役に挑んでいるなと思います」
『エルピス』の脚本家・渡辺あや氏は長澤が演じることを想定して脚本を書く「当て書き」だったと明かしている。
主人公は彼女しかあり得ないと言わしめ、名監督を唸らせる演技を見せる長澤。女優としての道のりは、決して平坦なものではなかった。