円形脱毛症は自己免疫疾患の一つである。1年程度で自然治癒する例もあるが、中には20年以上治らない、あるいは再発する症例もある。これら重症例に、30年ぶりに飲み薬が保険承認された。その薬には脱毛に関与する免疫細胞の暴走を抑制する効果があり、報告では重症患者の34%が36週の服用で脱毛面積が頭部の2割以下に減少している。
円形脱毛症は症状や重症度合いに応じて治療を行なう。通常は内服やステロイドによる外用療法、局所注射治療、紫外線療法、局所免疫療法などの対症療法を組み合わせて実施する。
脱毛範囲が少ないケースでは発症後1年以内に回復したり、経過観察だけの症例もある。逆に重症例では、これらを実施しても改善が見られないか、再発することも。
そのような重症例に対して今年6月にバリシチニブ(商品名:オルミエント)という薬が保険承認された。
前号(週刊ポスト2022年11月18・25日号)に続き、浜松医科大学附属病院皮膚科脱毛専門外来の伊藤泰介病院教授に聞く。
「この薬は2017年に関節リウマチ、2020年にアトピー性皮膚炎、2021年には新型コロナウイルスによる急性肺炎の薬として承認されており、これら自己免疫疾患には複数の炎症性サイトカインが関与しています。薬の効果としてはサイトカインの細胞内にあるシグナル伝達を担うJAK1/2を阻害し、免疫細胞の攻撃を抑制する働きをします」
円形脱毛症の毛根では活性化したリンパ球がインターフェロンγを産生しながら、毛球部を攻撃することで脱毛が起こる。さらに毛髪の上皮細胞からはインターロイキン15が産生され、これがTリンパ球を一層活性化し、サイトカイン・ループを形成するが、この薬はJAK1/2にくっつき、結果的には毛根への攻撃を抑制するのだ。
頭髪が50%以上脱毛している重症患者の治験では36週継続の服用を行ない、34%で脱毛範囲が頭部の20%以下に減少した。続けて52週継続服用では39%の患者で脱毛範囲が頭部の20%以下に減少する結果を得られた。薬の処方対象は脱毛部位が広範囲に及んでいる難治患者。用法用量は1日1回4ミリグラムで、症状の改善に伴い2ミリグラムに減量することも可能だ。