嫌な出来事や人間関係などによる疲れ、イライラ、不安……。さまざまな原因で生じるのが「ストレス」。暗い話題が多かった今年、その頻度はより増えたのではないだろうか──。
「ストレスは、生物の必須システムです」。応用神経科学者の青砥瑞人さんは、そう切り出した。
「太古の人は、脅威になりうる未知のものに遭遇するたび、脳が『生命の危機だ』とアラートを発し、『Fight or Flight(闘うか逃げるか)』と呼ばれるストレス反応を起こすことで危機を回避し、生き延びてきました。その『危険だ!』と感じる状態が、ストレスの正体です。脳も進化していると思われがちですが、実は数万年前から大して変化していないのです」(青砥さん・以下同)
脳は、いまも生存するための機能に優れているのだ。
「たとえば、異質なものを“エラー”と検出し、粗探しが得意な『ACC(前帯状皮質)』という脳部位が発達しています。
このように、脳はネガティブなものに注意を向けやすい性質があるのです。“ストレス=悪”と決めつける前に、“身を守ってくれるためのものだ”という認識を持った方がいいでしょう」
人から「小心」「臆病」などと言われると落ち込んだりもするが、青砥さんは、「脳科学の観点だと、そういう人は危険察知能力や、他人を思いやる能力に長けていて、むしろ『強み』。ネガティブなレッテルを貼るのは、ストレスに対する理解不足です」と語る。
だが、古代人のように、野生動物に襲われたり、ほかの部族と争ったりといった、日常的な命の危険がなくなったいま、脳は新たな問題に直面している。
「現代は『VUCAの時代』といわれています。これは、
Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)
の頭文字で、『変化が激しく、世の中の仕組みが複雑化し、曖昧で不確実な情報にあふれている』現代社会を表した言葉です。
太古から変わらない脳は、当然、SNSやインターネットから流れる大量の情報の中でもネガティブなものに注意が向きやすい。つまり、情報を無自覚に浴び続けると、脳は処理オーバーとなり、ストレスがたまってしまいます。
しかも、脳はネガティブ情報には半自動的に反応するくせに、ポジティブ情報には、意識しないと注意が向きづらいようにできています」
解決策は、自分の「内側」に目を向けることだという。