日本が優勝候補のドイツに勝ったことで大きな盛り上がりを見せるサッカーW杯。しかし、テレビ中継に関してはテレビ各局で温度差が見られるという。どんな事情が考えられるのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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27日19時、『FIFAワールドカップカタール2022』の日本VSコスタリカが放送されます。日曜ゴールデンタイムである上に、23日のドイツ戦を見事な逆転勝利で飾ったことで、さらなる盛り上がりが期待できるのではないでしょうか。
今回のカタール大会は、時差がほぼ同じ前回のロシア大会よりも、地上波の試合放送数が大幅に減りました。これまでは2002年の日韓大会以降、NHKと民放各局が協力して全64試合を放送してきましたが、今大会はNHKの21試合、テレビ朝日とフジテレビの各10試合の計41試合のみ。日本テレビ、TBS、テレビ東京が試合の放送から撤退し、一方でインターネットテレビの『ABEMA』が全64試合の無料配信することが、大会前から驚きをもって報じられていました。
特筆すべきは、「日本時間のゴールデン・プライムタイムに行われる試合でも中継なし」が散見されること。実際、サウジアラビアがアルゼンチンに勝ったことが注目を集めた試合は、優勝候補の初戦であり、22日19時開始のゴールデンタイムど真ん中であるにもかかわらず放送がありませんでした。
同様に24日19時開始の「スイスVSカメルーン」、25日19時開始の「ウェールズVSイラン」も放送なし。視聴率やスポンサーの獲得が難しい深夜帯ならともかく、ゴールデン・プライムタイムの試合が放送されないことに驚かされました。主要連ドラの放送休止も『silent』(フジテレビ系)のみであり、試合中継の裏番組になったときの対策もあまり見られないなど、その影響力はこれまでより弱まっています。
さらにカタール大会の放送が減っているのは試合中継だけではありません。日本代表の試合前後の日こそ各局の情報番組でコーナーが組まれるものの、主に週末のスポーツ番組で扱われる程度であり、かつてよりも明らかに減っています。
視聴者を分け合うテレ朝とABEMA
顕著なのは、民放各局によってワールドカップの温度差が大きくなっていること。民放で「最も勝負している」と感じるのはフジテレビで、ゴールデン・プライムタイムで4試合を放送するほか、大会前から応援番組やコーナーを手がけ、朝・昼・夜の情報番組で大きく扱い、『めざまし8』の谷原章介さんらを現地に派遣して盛り上げています。
それに続くのはテレビ朝日。27日は最高条件と言える「日曜19時の日本代表戦」の放映権を得たことで、17時から2時間特番『タモリステーション ~絶対に負けられないFIFAワールドカップ決戦直前SP~』も放送。また、「平日は深夜、土日はゴールデン・プライムタイムで放送」という明快な戦略も、ワールドカップへの意気込みを感じさせます。
しかし、全試合無料配信するABEMAは、同局がサイバーエージェントと共同出資した会社。つまり、「テレビ朝日が放送する試合もABEMAが配信するため、直接的なライバルになり、視聴者を分け合う」という複雑かつ微妙な関係性がうかがえます。
TBSは以前から各競技の中継に加えて、スポーツドキュメンタリーなどの専門番組も多く、『炎の体育会TV』というレギュラーバラエティもある文字通りの“スポーツ大局”。しかし今大会を扱う頻度は少なく、裏番組になったときの対策もバラエティ特番をぶつけるのみに留まっています。
そして最もクールな対応を見せているのが日本テレビ。ワールドカップは情報番組と週末のスポーツ番組の扱いに留め、裏番組になったときの対策すらほとんど見られません。「通常通りレギュラー番組をそのまま放送する」というスタンスはワールドカップを無視しているようにすら見えます。