「解説・本田圭佑」を楽しむため、視聴者が事前に知っておくべきことは何か──。サッカーW杯カタール大会、日本がドイツを2対1で破った1次リーグ・グループEの初戦、インターネットテレビ局『ABEMA』ではW杯日本人最多得点を誇る本田圭佑氏(36)が解説を務め、的確な状況分析や戦術の提案などで好評を博した。本田氏は続くコスタリカ戦、スペイン戦でもABEMAで解説を務める予定だが、本田氏の解説のどんなところが視聴者に受け入れられたのか。ライター・岡野誠氏が、ドイツ戦での本田氏の発言内容を精緻に分析し、そのポイントを探った。
* * *
本田圭佑氏による日本対ドイツ戦の解説で、特に話題になったのは、本田氏と面識のない選手に対する「さん付け」だ。一方、長らく日本代表で同じ釜の飯を食った旧知のプレイヤーには「ユウト(長友佑都)」「ゴンちゃん(権田修一)」と下の名前やニックネームを使用していた。
では、その頻度や割合はどの程度だったのか。実際に数えてみると、本田氏は試合中に日本選手の名前を延べ108回呼んでいる。大きく分ければ前半41回(38.0%)、後半67回(62.0%)となる。選手名を挙げる時の傾向は主に2つあった(以下、分数はABEMAの画面表示に従う)。
【1】フォーメーション説明や戦術提案のために用いる
例1:後半19分、「(右サイドに)左利きの選手を置くと、たぶん(左サイドの)三笘さんのスペースの使えると思います」「堂安さんとかがそれできるんで」と提案。その7分後、森保一監督が堂安律をピッチに送り出す。
例2:後半28分、「ほら、ズーレが穴なのよ、わかる? もっとそこ狙っていけって」とドイツの弱点を指摘。その直後に南野拓実が投入されると、「これあるかもしれないですね。ズーレのところ、拓実と三笘さんとうまく使えば。拓実はね、ズーレの周りをちょこちょこするといいと思います」と提案。2分後、三笘が左サイドからドリブルで仕掛け、ペナルティエリア内の南野にスルーパス。南野が中に折り返してキーパーが弾いたところに堂安が詰め、同点ゴールが生まれた。
【2】日本のチャンスやピンチの前後
例1:前半7分、伊東純也のクロスに前田大然が飛び込み、ネットを揺らすもオフサイド。「これね、前田さん(オフサイド)ライン見れたでしょ! 見られへんかったのかな」と指摘。
例2:後半37分、板倉滉のロングパスから浅野拓磨が逆転ゴールを決める前後には「チャンス! きた~! よ~し! きたぞ!! 拓磨!!」と絶叫した。
「それ、佑都もっと下がらなあかん」(後半7分)のように注意する場面もあったが、ほとんどは上記の2つのシーンに集約された。
本田氏は、今までなんとなくW杯を見ていた層がサッカーの面白さに目覚めそうなほど、今ピッチ上で起きていることを明確に分析していた。投入すべき選手や相手の弱点を指摘し、その直後に同点ゴールが生まれるというミラクルもあった。サッカー解説者は数多いるが、素早く的確に現状の問題点を説明し、ポジションの修正や交代案など具体的な打開策を挙げられる人は珍しい。