大相撲九州場所は12勝3敗で並んだ貴景勝、高安、阿炎による優勝決定巴戦に。優勝したのは西前頭9枚目の阿炎だった。7月の名古屋場所の逸ノ城、9月の秋場所の玉鷲に続く3場所連続の平幕優勝となるのは史上初のこと。年間を通じて平幕優勝3回も初めてのことだった。そうしたなかで、もうひとつの「異例の事態」が起きていたが、NHKの相撲中継では奇妙な“気まずい空気”が流れたのだった。
九州場所は千秋楽を終え、2022年の大相撲は幕を閉じた。57勝で年間最多勝となったのは関脇の若隆景。年6場所制となった1958年以降で関脇以下が年間最多勝となるのは1960年の大鵬、1992年の貴花田、2019年の朝乃山以来3年ぶり4度目。横綱、大関で最多の勝ち星を挙げたのが貴景勝の50勝だった。
この1年、横綱・大関が責任を果たしていなかったことを示すデータばかりだが、カド番大関の正代が負け越し、大関を陥落した御嶽海が復帰できなかったことで、来場所は1横綱、1大関の異例の番付となる。さらに平幕優勝が続く可能性もある。
そうしたなかで巴戦まで優勝がもつれた千秋楽で、注目された一番がある。幕尻の東前頭16枚目・照強の取組である。豪快な塩まきで館内を沸かせる人気力士だが、今場所は初日から黒星続きで、千秋楽も逸ノ城に上手投げで敗れて15戦全敗となった。
一場所で15戦全敗は過去4人しかいない不名誉な記録だが、NHKの相撲中継ではアナウンサーが「過去に前例がないわけではありませんが……」と言葉を濁し、正面解説の北の富士氏は「全勝より(全敗は)ずっと難しいからね。ショックだろうね」と話すにとどまった。向正面解説の舞の海氏は、15戦全敗についてのコメントがなかった。
それには理由があるとみていい。31年前に1991年名古屋場所でこの記録を作ったのが、八百長の仲介役「中盆」として知られた板井圭介氏(2018年死去)だったのだ。板井は年寄・春日山を襲名する予定だったが、協会が襲名を認めず廃業となっている。