長期間服用し続けることで害になる薬もある。多くの識者が「注意すべし」と声をそろえたのが、風邪薬と解熱鎮痛剤だ。希惺会ながたクリニック院長の永田理希さんは、解熱鎮痛剤の乱用を懸念する。
「発熱は体の防御反応であり、体温が1℃下がると免疫力が下がります。風邪をひくとすぐに解熱鎮痛剤をのむ人もいますが、痛みや発熱がひどくて眠れないようなとき以外は控えた方がいい。
解熱しない方が早く治る可能性も高いし、薬を使うと病状の変化に気づかない恐れもあります」
薬剤師の長澤育弘さんは、長期服用に伴う高血圧のリスクを指摘する。
「『ロキソプロフェン』や『イブプロフェン』などの解熱鎮痛剤を常備する人は多いですが、長期の利用で血圧が上昇することがわかっています。実際に高血圧に悩む人がロキソプロフェンの服用をやめたら血圧が下がったという事例もある。3週間以上手放せないという人は、一度病院を受診して根本的な解決をすべきです」
風邪のときに薬を服用すること自体、間違っているケースもある。
「医師の処方するPL配合顆粒などの総合感冒薬や多くの対症療法薬、市販風邪薬に含まれる鼻炎止め、咳止め、痰切り、気管支を広げる薬には症状を軽減する効果がないばかりか、副作用があるものも多く、集中力・判断力の低下や動悸や手の震えなどが指摘されています。特に高齢者では転倒リスクや緑内障の悪化による眼圧上昇などの副作用もあります」(永田さん)
風邪のひき始めによくのまれる葛根湯も決して万能薬ではない。
「熱感や悪寒があり、肩や全身に痛みや強い張りがあるような風邪の場合には効果が期待できますが、それ以外のタイプの風邪には意味がありません。主成分である生薬の『麻黄』には、甲状腺疾患や心疾患がある人、高齢者には副作用が出る可能性もあります」(永田さん)
つまり、風邪をひいたときは必要最小限の薬の服用に留め、しっかり体を休めることが正解だということ。薬剤師の三上彰貴子さんが解説する。
「大量にのむのは絶対にNGです。風邪薬や解熱鎮痛剤を“体が大きいから”“効き目が悪いから”という理由で、たくさんのむ人もいますが、適切に効果が出ないばかりか、思わぬ副作用まで出るケースがあります。また、風邪薬に含まれる抗ヒスタミン薬は眠気を誘い、カフェインは気持ちを高揚させます。そのため、眠れないから、調子がよくなるからという理由で、風邪薬をのみ続ける人が最近相談に来ました。
1年半服用し続けた男性は透析が必要になるほど腎臓が悪くなりました。
医薬品による副作用で入院以上の重篤な健康被害が生じたら、国から給付金を受けられる副作用救済制度がありますが、用法用量を守っていない場合は適用されません」(三上さん)
大量に服用することがリスクになるのは便秘薬も同様だ。長澤さんがいう。
「刺激性の便秘薬を常用すると、腸が慣れて動かなくなるので、量が増えていく一方です。長期の服用は控えて、ここぞというときにだけ使いましょう」
同じ薬をのみ続けることに危険が伴うとはいえ、安易に薬を変更することも得策ではない。しかし、医師の診断でこれまでのんでいた薬を変える場合はもちろんのこと、近年は長引く薬の供給不足で、薬局では薬の変更を提案されることもある。
「従来使っていた先発薬からジェネリックへの変更やジェネリックのメーカーの変更を示唆されることがあります。人によっては、メーカーが変わると薬が合わない、効きが違うと訴える人もいます。不安な場合は、薬局で『分割調剤』を相談してみるといいでしょう。たとえば30日分の薬なら、お試しで最初の1週間分だけを新しい薬で受け取ることができます」(三上さん)