年末のNHKの看板番組「紅白歌合戦」の今年の出演者が発表され、“シニア視聴者切り捨て”と波紋を広げている。K-POPアイドルが5組出場し、そのうち2組は日本ではほぼ新人。ジャニーズも6組、全出場歌手42組中、初出場組が10組を占め、若者世代には知名度があっても、シニア世代には聞いたこともないユニット名が並ぶ。
しかし、若者世代はテレビを持っていない人も多く、そうなると当然、受信料も払っていない人が多い。番組は「若者偏重」になる一方で、受信料はシニア層に支えられている現実があるのだ。
そして、NHKには高齢者から集めた受信料で懐にはカネがうなっている。
NHKの決算によると、繰り越し剰余金は2019年度末の1280億円から2021年度末には過去最大の2231億円に膨らんだ。それとは別に、渋谷のNHK放送センターの建て替えのために建設積立金が1693億円あり、貯め込んだ剰余金は合計3924億円に達する。
そうしたカネはもっぱら番組のサービス低下と受信料徴収コストの引き下げによって捻出される。
2020年1月に就任した前田晃伸NHK会長は「スリムで強靭な新しいNHK」を掲げ、BS放送1波とAMラジオのチャンネル数削減を盛り込んだ経営計画をまとめた。
折からのコロナ感染拡大でNHKは番組制作費を大幅にカット。2021年度のジャンル別の番組制作費を前田会長が就任する前年の2019年度と比べると、ニュースなど報道部門は197億円、スポーツ番組は195億円減り、全体では3605億円から3070億円へと535億円(約15%)の減額。その間の受信料の減少幅は315億円(約4.4%)なので、番組制作費がいかにバッサリ削られたかがわかる。
制作費のカットは番組の質低下やコンテンツの減少につながる。NHKはその裏で浮いた制作費を剰余金としてちゃっかり貯め込んでいたのである。
現在、NHK受信料を支払っているのは全国で約3682万世帯、受信料未払い者への訴訟など国民への“恫喝”と批判された徴収強化で支払い率は対象世帯の約79%に達している。
徴収率がアップすると、NHKは次に集金コストを大幅に削った。集金人による戸別訪問徴収を段階的に廃止し、人件費などの営業経費を2021年度には2019年度と比べて約140億円減らした。
NHKは来年10月から受信料の1割値下げを発表したが、貯め込んだカネから視聴者に還元されるのは地上波契約で月125円という“雀の涙”ほどの金額だ。その上、値下げと同時に受信料の未払い者には倍額を請求する制度を新設する。
『NHKはなぜ金持ちなのか?』の著者でジャーナリストの小田桐誠氏が指摘する。
「NHKは本体の他に子会社にもカネを蓄えています。会計検査院が2017年にNHKの子会社全体で948億円の剰余金があると指摘したが、現預金だけでなく、有価証券、不動産などの形でも資産を作っている。子会社は2021年度にも合計500億円程度の売り上げがあり、剰余金はさらに増えている可能性があります。
子会社がどうやって稼ぐかというと、NHKはNHKエンタープライズを通して様々な制作会社に番組制作を委託することで制作費を抑え、その上で制作会社が取材した素材を含めてすべてアーカイブスに保存する。例えば30分番組の制作でその10倍近い時間カメラを回し、使っていない部分を映像素材として売る。
関連グッズの収入も大きい。例えば、大ヒットした朝の連続テレビ小説『あまちゃん』は、230もの関連商品で関連会社は75億円の収入を得た。そうした関連会社のヘソクリを出せば、受信料はもっと下げられるはず」