「男女平等」実現への第一歩

 ある文学者がツイッター上で別の現代語訳を公開した。比較すると問題点がよくわかるので、その「高橋源一郎訳」を引用させていただく。次のようなものだ。

〈「はい、天皇です。よろしく。ぼくがふだん考えていることをいまから言うのでしっかり聞いてください。もともとこの国は、ぼくたち天皇家の祖先が作ったものなんです。知ってました? とにかく、ぼくたちの祖先は代々、みんな実に立派で素晴らしい徳の持ち主ばかりでしたね」

「きみたち国民は、いま、そのパーフェクトに素晴らしいぼくたち天皇家の臣下であるわけです。そこのところを忘れてはいけませんよ。その上で言いますけど、きみたち国民は、長い間、臣下としては主君に忠誠を尽くし、子どもとしては親に孝行をしてきたわけです」

「その点に関しては、一人の例外もなくね。その歴史こそ、この国の根本であり、素晴らしいところなんですよ。そういうわけですから、教育の原理もそこに置かなきゃなりません。きみたち天皇家の臣下である国民は、それを前提にした上で、父母を敬い、兄弟は仲良くし、夫婦は喧嘩しないこと」

「そして、友だちは信じ合い、何をするにも慎み深く、博愛精神を持ち、勉強し、仕事のやり方を習い、そのことによって智能をさらに上の段階に押し上げ、徳と才能をさらに立派なものにし、なにより、公共の利益と社会の為になることを第一に考えるような人間にならなくちゃなりません」

「もちろんのことだけれど、ぼくが制定した憲法を大切にして、法律をやぶるようなことは絶対しちゃいけません。よろしいですか。さて、その上で、いったん何かが起こったら、いや、はっきりいうと、戦争が起こったりしたら、勇気を持ち、公のために奉仕してください」

「というか、永遠に続くぼくたち天皇家を護るために戦争に行ってください。それが正義であり『人としての正しい道』なんです。そのことは、きみたちが、ただ単にぼくの忠実な臣下であることを証明するだけでなく、きみたちの祖先が同じように忠誠を誓っていたことを讃えることにもなるんです」

「いままで述べたことはどれも、ぼくたち天皇家の偉大な祖先が残してくれた素晴らしい教訓であり、その子孫であるぼくも臣下であるきみたち国民も、共に守っていかなければならないことであり、あらゆる時代を通じ、世界中どこに行っても通用する、絶対に間違いの無い『真理』なんです」

「そういうわけで、ぼくも、きみたち天皇家の臣下である国民も、そのことを決して忘れず、みんな心を一つにして、そのことを実践していこうじゃありませんか。以上! 明治二十三年十月三十日 天皇」〉
(高橋源一郎ツイッター @takagengenより)

 訳文としてどちらが正確かと言えば、やはり「高橋訳」のほうだろう。たとえば前者は、「天壌無窮の皇運」という部分の訳文にあたるものが無い。後者には「永遠に続くぼくたち天皇家」という訳文がちゃんとある。また、その直前の「一旦緩急あれば義勇公に奉じ」という部分も前者の「非常事態の発生の場合」はたしかにそのとおりなのだが、この時代「(国家にとっての)非常事態」と言えば誰もが想定するのが「戦争」であって、地震や台風では無い。そもそも明治国家は、アヘン戦争と黒船来航ショックで誕生した国家である。そういう意味で「いったん何かが起こったら、いや、はっきりいうと、戦争が起こったりしたら」というのは意訳としては的確である。

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