井川慶、中谷仁(現智弁和歌山監督)とドラフト同期の元阪神の奥村武博の人生は、順風満帆ではなかった。4年目の2001年オフに戦力外通告を受け、バッティングピッチャーに転じるも1年でクビに。その後、飲食業を手がけたが2年で辞めた。
紆余曲折がありながらも商業高校で簿記2級の資格を持っていたこともあって公認会計士になろうと決意した。
「2004年の秋から1年半準備して試験を受け、そこから7年連続で試験に落ちました。さすがに、そのときは諦めようと思いました」
周囲の協力もあって、2013年にようやく合格。元プロ野球選手では初のことだった。
「現在は、アスリートが現役のうちから社会に出る能力を養うことで引退後の人生に不安を抱かず、いろんな分野へと進出できるようなプラットフォームを作っていきたいと考えております」
選手会が開催する「退団研修会」の講師を務めるなど、球界の未来を日々考えている。
(文中敬称略)
【プロフィール】
奥村武博(おくむら・たけひろ)/1979年生まれ、岐阜県多治見市出身。1997年阪神タイガースにドラフト6位で入団。2001年肩肘の怪我により戦力外通告を受け、打撃投手へ転向するも1年で解雇。その後は、9年間勉強の末、日本初の元プロ野球選手の公認会計士となる。
【取材・文】
松永多佳倫(まつなが・たかりん)/ノンフィクション作家。1968年、岐阜県生まれ。琉球大卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)など著書多数。ビジネス書籍『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』がKADOKAWAより発売中。
写真/木村圭司
※週刊ポスト2022年12月9日号