尿や血液を使った在宅でのがん検査が続々登場している。多くは、がん細胞のDNAからリスクを判定するが、高リスクの判定でも発生箇所(がん種)を特定できない。そこで、がん細胞から出るmi(マイクロ)RNAを検査し、すい臓や食道、大腸など特定のがんリスクを判定できる検査法が開発された。自宅で採尿して郵送するだけでリスクがわかる簡易な検査だ。
新型コロナ感染拡大以降、がん検診の受診率が低下し、その間に、がんが進行している症例が数多く報告された。そのため、来院しなくても在宅で血液や尿などを採取して検体を送り、腫瘍由来検体の有無を検査するリキッドバイオプシーというがん検査が何種類も登場している。
それらの検査は、がん細胞のDNAを解析するものが主流だ。ただし、がんのリスク(有無の可能性)は判明しても、どこにがんがあるのか特定できない。そうした理由から高リスク判定が出ているのに、がんの発生箇所を1度で特定できず、多くの医療機関を受診しなければならない検査難民が生み出されている。
名古屋大学発ベンチャーのクライフ株式会社(文京区)の市川裕樹CTOが解説する。
「今までの在宅がん検査の主な目的は、がんの早期発見ですが、がん検査難民にも繋がっています。そこで我々は、がん細胞の初期から浮遊するmiRNAを採取して分析し、特定のがん種のリスクを判定する検査法を開発しました」
miRNAは細胞の発生・増殖・分化・代謝などに関わる遺伝子調整因子として様々な疾患や生命活動に関与している。しかも、がん細胞から遊離するmiRNAは、がんの発生・悪性化・転移などにも深く関わっていることがわかっており、がん細胞そのものの特性にも影響を与えている。
この特性を利用することで、がん種の特定も可能となるため、同社は全国20か所の医療機関と共同研究を行ない、がん患者と健常者の尿から尿中のmiRNAを集め、AIでデータを解析。その膨大なデータをもとに、がん種ごとのmiRNAの特定に成功。さらに血液採取と比べ、尿は自宅で採取しやすく、尿中には確実にmiRNAが存在しているので、尿中からmiRNAを効率よく分離できる技術も開発。がんリスクにおける信頼性の高いバイオマーカーとしての検査方法を確立した。
「今月から肺がん・胃がん・乳がん・卵巣がんに加え、すい臓がん・食道がん・大腸がんの7種のリスク検査が可能になりました。中でも、すい臓がんは発見時に進行が進み、手術不可の症例も多く、また体に負担が大きい検査をしなければならず、そのような発見しにくいがんに対しても早期発見の可能性が高まるという点で、これから評価されると思います」(市川CTO)