1994年2月、景気対策の合同会議を終え、記者会見する(右から)細川護熙首相、羽田孜外相、藤井裕久蔵相(時事通信フォト)

1994年2月、景気対策の合同会議を終え、記者会見する(右から)細川護熙首相、羽田孜外相、藤井裕久蔵相(時事通信フォト)

 それでも「2017年度までに返済」という約束の反故は交通事故被害者団体の訴えやJAFによる問題提起に繋がり、ついに麻生財務相は23億2000万円の返済を2018年度の予算案に組み込んだ。なんと15年ぶりの返済、しかしこの時点で毎年23億円として完済まで単純計算で約260年(!)かかるという返済案は、身内である金融庁の「自賠責保険審議会」からも意見が相次いだ。

 そして、ついに完済されることなく、今回の鈴木俊一財務大臣の「申し訳ない」「1回でお返しするのは無理」という会見に繋がったというわけである。自賠責からの持ち出しは年77億円(2021年度)なので20年程度で自賠責は底をつく。ようやく始まった返済額ですら焼け石に水。何度でも書くが、そもそも6000億円を財務省が返せば済む話なのに。

下のつみたてた金を上が使っているだけ

 少し政治の変遷について長くなったが、これを読んでいただければ「なるほど与野党あい乗りで値上げ賛成のはずだ」となる。まったく政権にいなかった共産党と、どの旧政党の系譜も直接的には持たないれいわ以外は、この自賠責の使い込みと返済遅延の歴史に大なり小なり関わってしまっている。結局のところ、国民=ユーザーの自賠責保険料を当時の大蔵省、現・財務省が一般会計として使い続けてきたこと、返さなかったことは、日本のその時々の日本新党、新生党、自社さ、民主、自公やそれに組みした政治家と官僚による仕業である。

 こんなものはイデオロギーでも「左右」の問題でもなんでもなく、政府官僚と一般国民という「上下」の問題である。下のつみたてた金を上が使っているだけの話であり、彼らは上だから下に返す気がない、というシンプルな話である。この「上」をネットスラングの「上級国民」に変えてもいいだろう。筆者はこの自賠責問題に関してどの政党にも加担するつもりはない。ただ歴史として、与野党ともどもこの件に加担してきた、そうでない政党だけが値上げに反対したという事実を書いている。もはや自賠責問題は保守だ、リベラルだの「左右」の話ではなく、上がなにをしても罪に問われず下に責任が押し付けられるという、旧統一教会や勝共連合、年金問題と同様にこの国の「病気」の話である。

 絶望的になるかもしれないが、この国は年金しかり、お金に関してはそういうからくりの中にある「上下の国」だ。思えば年金横領問題では上の連中が100人以上も使い込み、多くが逃げ果せて年金暮らしをしているか、あるいは身内に限れば「元公務員で小金持ちのおじいちゃん」として天寿をまっとうしている。この「消えた年金800兆円」、ほんの15年前の話である。社保庁は年金機構と名前を変えて非正規や出入り業者をこき使い、少しでも遅れようものなら督促を繰り返している。これから年金の支払期間が40年間から45年間に延長されて1人あたり100万円以上も余計に払うことになるが、これまた「上」による失政の責任は一般国民という「下」がとらされる。自賠責も同様の構図にある。

関連キーワード

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト