借りたものをそのままパクる、自分のものにしてしまうことを俗に「借りパク」と呼び、セコい、卑しいなど蔑みの意味を込めて使われている。その借りパクをするつもりかと疑いたくなるのが交通事故で重い障害を負った人の療養などに充てる自賠責保険(自動車損害賠償保険)を借りたままの財務省。鈴木俊一財務相が「申し訳ないと思っているが、そういう中で着実に確実に繰り戻し、誠意をもってお返ししていくことが大切だと思っている」と会見で述べて話題となった。俳人で著作家の日野百草氏が、借りパク疑惑があるなか値上げが決まっている自賠責保険の行く末について考えた。
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自動車、オートバイなどユーザーすべてが強制的に入る自賠責(自動車損害賠償責任)保険。交通事故被害者の救済と、ユーザーの対人賠償に使われるとされてきた自賠責が、約6000億円(5952億円・2022年度末)も政府および財務省の便利なお財布として使われたまま、今日現在も完済されない。
そして貸し出している側の国土交通省は「被害者支援の充実」として2023年度からの賦課金(現在32円)の値上げを発表した。被害者支援を充実させるためと言うなら財務省が6000億円、耳を揃えて返せば済む話を一般ユーザー=国民に対する値上げで対応するとした。最大で150円、額だけ見ればたいしたことはないと思うかもしれないが、もとを正せば財務省が返さないままの6000億円を返せば済む話で、財務省が返さないから国民に負担では納得できるはずもない。筆者はこの件を各媒体で取り上げてきたが、運用益の低金利による減少は仕方がないにせよ、財務省が返さないから値上げなのに「被害者支援を充実」という言い訳はあまりに理不尽であり、「ごまかし」であると受け止められても仕方のない話である。
これに対して2022年11月11日、鈴木俊一財務大臣は「申し訳ない」と述べた。そして「1回でお返しするのは無理」として完済の目処のないことも認めた。2022年度は54億円の返済でこのままなら100年経っても完済できない。鈴木財務相はこれに7億円の繰り戻しと補正予算の12.5億円を追加すると表明したが、このペースでも完済まで85年かかる。つまり22世紀まで自賠責の積立金は返ってこない。
2017年、当時のJAF(日本自動車連盟)会長はこの件に関して「踏み倒されるのでは」と予期していたが、まさしく、こんな返済計画は政府および財務省による「事実上の踏み倒し」宣言と言っても構わないだろう。そもそも、この6000億円は自賠責の積立金であり、道路特定財源などの目的税を一般会計に留保するなどの手口とも違う。民間ならば「詐欺」「泥棒」のそしりを受けても仕方のない行為である。
しかし不思議なことに、この返済先延ばしの値上げは与野党による圧倒的多数で2022年6月9日に可決、成立している(6月15日公布)。自民、公明、国民、立憲、維新が賛成に回り、反対は共産党とれいわ、院内会派の有志の会のみである。これはどういうことか。