12月に入り、クライマックスを迎えるNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。宿老13人の1人である官人・二階堂行政を演じ、脚本の三谷幸喜が主宰した劇団「東京サンシャインボーイズ」に数多く客演してきた名バイプレイヤーの野仲イサオさん(63)が、役作りの過程や放送されなかった“幻のシーン”など撮影秘話を明かすとともに、60代前半の役者が直面する“壁”を語った。
「僕が演じる二階堂行政という人物は歴史的な記述があまりなく、どのような性格の人なのかもわかりません。ただ、貴族階級ですから、貴族風に役を演じようと考えていました。ところが、最初のセリフのあるシーンが、議論の最中に小刀を卓上にバーンと突き刺して『なし崩し、どさくさまぎれは悪政のもとじゃ!』と怒声を発する場面だったんですよ。僕、悩んでしまいましてね」(野仲さん。以下同)
議論中に貴族がいきなり刃物を卓上に突き立てる、しかもそれを頼朝の弟(範頼)に向かってやることに戸惑いを感じたと振り返る。
「僕的に役柄を考え、貴族でこんなことやるのはよほど大変なことだから、やむを得ずと伝わるよう、しなをつくるような所作をにじませて『え、ええいっ、悪政のもと…じゃぁ』と声が裏返る感じで演じました。悪役俳優として人気を博した成田三樹夫さんが貴族を演じた時(NHK大河ドラマ『新・平家物語』の藤原頼長役)の甲高い声色でのイメージもあったので(笑)」
しかし、現場からは「範頼をにらみつけて」と演出の指示が飛んできたという。行政としての初めてのセリフは、その後のキャラクターの方向性を決定付ける。野仲さんは慎重だった。
「貴族の役柄上、あの演技はどうなんだろうという話になり、次の日、プロデューサーと監督が三谷さんに連絡し、役柄について仰ぐと、三谷さんは“鉄面皮で”と答えそうです。三谷さんにはこれまで乱暴者で気遣いができない人間の役をよくいただいていたので、“鉄面皮で”と聞いて、『ああ、今までと変わらない役なんだ、普通どおりにやればいいんだ』と迷いがなくなりました。それで鉄面皮の演技に戻したんですが、放送を見ると、小刀を突き立てるシーンはカットになっていました(笑)」
「考えすぎたことが裏目に出てしまった」とクランクイン時の思い出を語る野仲さんだが、セリフの覚え方もユニークで、役者魂を見せつける。