11月末から中国全土と世界の各国都市で断続的に行なわれた「ゼロコロナ政策」への抗議デモ。抗議の声に動かされるように、上海市は12月5日からコロナ対策を一部緩和すると発表した。デモ現場では「習近平は退陣せよ!」「自由が欲しい!」といったスローガンも叫ばれ、ついに中国人民は覚醒した──かのようにも見えるが、実際はそう単純ではない。中国事情に詳しいライター・西谷格氏がデモ現場で周縁の声を拾うと、もう一つの景色が見えてきた。
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11月27日に東京・新宿駅西口で突発的に開催されたのを皮切りに、28日には麻布の中国大使館前、30日に新宿駅南口、12月2日に池袋駅西口前、3日に大阪市西区の靱公園、4日に高田馬場駅前など、日本でも1週間ほどの間に在日中国人によるゼロコロナへの抗議運動が続いた。
12月2日夜、池袋駅西口では数十人の中国人が集まり、ゼロコロナ政策によって犠牲になったとされる人々への追悼集会を行なった。この日はスローガンを叫ぶことはしないと事前に決められていたものの、現場では中国政府に対して批判的なビラが配られ、言論封殺への抗議を示す白紙を掲げる人々が多数集まった。LEDランプのロウソクを中心に、輪ができていた。
輪の中心のほうにいる人々の意見は、これまでの取材でおおよそ見当が付いていた。ゼロコロナはおかしい、もう我慢の限界だ、言論の自由が必要だ、中国共産党による独裁体制を変えなくてはいけない……。政治運動というのは不思議なもので、同じようなスローガンを繰り返し唱えるうちに、思考回路も一つの型にはまっていくものなのかもしれない。迷いのない言葉は歯切れが良い一方、何かを見えにくくするようでもあった。
誰に声をかけようかと逡巡していると、集会の輪から2メートルほど離れた路上で、興味深そうに横目でこちらを眺めている男性がいた。今にも通り過ぎてしまいそうな様子で立ち止まっていたので、急いで声をかけた。20代後半で、来日して日が浅いという。頭髪をかき上げながら、彼はこう言った。
「彼らのことはすごいと思うよ。気持ちはよく分かる。ゼロコロナはみんな反対しているもの。でも、俺にはとてもあんなことをする勇気はないな」
参加しない理由を、こう述べた。