文部科学省は旧統一教会に対して初の質問権を行使し、政府は今国会に提出する被害者救済新法について閣議決定した。旧統一教会問題がようやく前進しようとしているが、ここまでたどり着くには旧統一教会と対峙してきた弁護団の孤軍奮闘があった。
さる11月29日、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が記者会見を開き、政府が提示した旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の被害者救済法案の条文案を批判した。翌30日の参院予算委員会では木村壮・弁護士が参考人として証言に立ち、「この新法では十分な被害救済、被害防止を図ることはできない」と指摘した。
全国弁連は1987年に結成以来、35年にわたって旧統一教会と対峙し、教団が元信者など多くの被害者から奪い取った財産を取り戻してきた。
教団との戦いは現在も続いている。全国弁連は今年9月、「旧統一教会の解散請求等を求める声明」を発表し、同教団の現役信者向けにも別の声明を出して脱会と相談を呼びかけた。
これに対して旧統一教会側は〈当法人を「カルト」と決めつけて、その「メンバーの増加を防ぐことが必要だ」と文部科学省に訴えるのは、国家機関に特定宗教を弾圧させるという憲法違反行為を求めるものに他ならない〉などという抗議及び撤回要求を突きつけた。
さらに、同教団は紀藤正樹・弁護士らのメディアでの発言に損害賠償を求める名誉毀損訴訟を起こした。代表世話人の山口広・弁護士が語る。
「こうした抗議のようなものは統一教会からは適宜来ています。われわれも統一教会に申し入れなどを行なってきましたが、馬の耳に念仏という感じです。そもそも日本の統一教会は、韓国の本部に支配されています。だから日本の統一教会が攻められても、韓国からすればエバ国家(※注)にある下部組織の問題に過ぎない。
【※注/旧統一教会の教義では、韓国を「アダム国家」、日本を「エバ国家」と呼び、エバはアダムを堕落させたから「エバ国家」である日本は「アダム国家」韓国に侍らなければならないとしている】
田中富広・会長、勅使河原秀行・本部長も傀儡に過ぎず、本音で何も話しません。日本の統一教会にいくらアピールをしても伝わらないのは虚しさすら覚えます」
政治の妨害も続いている。前述のように参院では木村弁護士が参考人として意見を陳述したものの、衆院では与党側の反対で実現していない。
「立憲民主党の長妻昭議員から11月25日の衆院予算委員会で意見を述べてほしいと言われて準備していましたが、『与党の拒否で見送りになった』と連絡をもらいました」(木村弁護士)
弁護団にとって被害者法案の国会審議は、新法が信者やその家族が奪い取られた財産を同教団から取り戻すための強力な武器となるか、それとも政治家に骨抜きにされ、批判をかわすためのアリバイ作りに利用されるかの正念場だ。
水面下の攻防は激しさを増している。
※週刊ポスト2022年12月16日号