【著者インタビュー】三國万里子さん/『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』/新潮社/1650円
【本の内容】
ハンドニットのデザイナーである三國さんにとって本書は初めてのエッセイ集。「はじめに」でこう記す。《書いていて思ったのは、わたしにとって「書く」ことは「編む」ことと似ているということです。/書きたいこと(あるいは書かれることを待っている何か)を探し、拾いながら、物語の糸のようなものをたぐりたぐり進んでいくと、いつの間にか歩いた分の地図が作られ、しかるべきゴールにたどり着く》。家族や現職以前の仕事、夫との出会いや子育て……大切で幸福な記憶をつづった29編。
同じ記憶を共有しながらも妹とは見ているものが違った
言葉の一つひとつが的確に選ばれ、それでいて風通しのよい、すばらしいエッセイ集だ。
三國万里子さんはハンドメイド好きに大人気のニットデザイナー。編み物の本は何冊も出ているが、エッセイ集は初めて。
「エッセイって論考ですよね? 自分ではエッセイというより、『お話』のつもりで書きました。新潟で過ごした子ども時代のこととかよみがえってきて、匂いや苺と一緒に食べてしまった蟻の味も思い出しました。すごく奇妙な味なんですよ。書くことを通してそういう経験ができたのも面白かったです」
夫との出会い。両親や父方、母方の祖父母と暮らした少女のころ。生きづらさを感じていた中学生時代。子どもが小さいころのできごと。思い出すまま自由につづられているようで、なめらかな流れも感じさせる構成だ。
「もしかしたら、小さいころから続けていたピアノの練習曲の構成に影響を受けているのかもしれません。話の内容がどんどんずれていって、最終的には戻って着地するところとか」と三國さん。
一つ違いの妹がいる。自分の記憶を確認するなかで、「食べものの記憶が驚くほど鮮明に残っている」と本の中に登場する妹が、NHK『きょうの料理』にも出演する料理家のなかしましほさんである。
「同じ記憶を共有しているところがありつつ、妹とは見ているものが違うんだな、とわかりました。私たち、ほんとに喧嘩をしたの。価値観のぶつけ合いで、生きるか死ぬかぐらいの喧嘩でしたね。ちょっと悔しいけど、私にとってはそのことも私をつくった大切な一部なんでしょうね。いまになれば、面白い人と18年一緒にいたんだな、と思います」
編み物を仕事にして20年になる。早稲田大学第一文学部の仏文専修を卒業するが、進む道を決められず、就職はしないで古着屋のアルバイトやゲームショップで働いた。秋田の温泉宿で仲居をしていたこともある。
祖母の手ほどきで編み物を始めたのは3歳のとき。学生時代は、東京・日本橋の丸善で、好きな北欧デザインの洋書を探した。