近年、市街地への出没が相次ぐ野生動物。住居への侵入や通行人を襲うなど、人的被害も出ているという。11月24日、都心から電車で1時間余りの神奈川県秦野市では、野生イノシシの大捕物があったばかりだ。なぜ、こうした獣害が増えているのだろうか。【前後編の後編】
コンビニ前にたむろ
従来の生息エリアを超えるばかりか、およそ適さないはずの都市部の市街地にまで進出するようになった野生動物たち。何が起きているのか。『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』著者の森林ジャーナリスト・田中淳夫氏が言う。
「山でエサ(食べ物)がなくなったから市街地に現われるようになった、と指摘する人もいますが、より根本的には、イノシシやシカの生息数が増えてきたことが最も大きな理由です。関西でも、大阪などの大都市部でごく当たり前に目撃されており、六甲山地を背景に持つ神戸市内では、一時期『夜になるとコンビニ前にイノシシがたむろする』と言われるほど出没が相次ぎました」
野生動物の住宅街への闖入が引き起こした事故や事件も全国各地で報告されている。環境省の調査によると、2021年度のイノシシによる人身被害は全国で44件あった。2022年は9月までに15件が報告されている。
大阪府内の山村では、昨年8月、路上でイノシシに襲われた男性が側溝に倒れているのが見つかり、病院搬送後に死亡した。胸や脚には牙で突かれた傷跡が多数残っていた。今年11月には徳島県小松島市の市街地にイノシシが複数回現われ、次々と人を襲った。通学中の小学生ら6人が手足を噛まれるなどのケガをしたほか、国道を歩いていた男性が背後から体長1.5mのイノシシに体当たりされるなどしたという。
人間の生活エリアを脅かすまで増えたイノシシ。環境省自然環境局の個体数推定によると、日本に生息するイノシシの数は、1989年は28万頭だったのが、2019年には80万頭となり、30年で3倍近くに激増した。近年は減少傾向にあるものの、イノシシの生息分布域は2018年度までの40年間で約2倍に拡大しているという。
個体数が増え、生息域が拡がれば、当然、人間社会との接触も増える。農水省によると、2020年度のイノシシによる農作物被害は46億円に上った。水田の稲を踏み荒らしたり、土手を鼻で掘り返すなどの被害が起きている。