【著者インタビュー】今尾恵介さん/『地図帳の深読み 鉄道編』/帝国書院/1980円
【本の内容】
1872年、新橋〜横浜間に鉄道が開業してから2022年10月14日に150周年を迎えた。≪人と物の流れに対応して存在している鉄道は、そのまま人々の暮らしに直結していますから、産業政策から税制、地球温暖化防止対策、あるべき都市の姿などなど、多くの分野が鉄道に関連しています≫(「あとがき」より)。世の中の移り変わりとともに鉄道はどう変化してきたのか。改良や進化、衰退や廃止……数多くの図版とともに地図研究の第一人者が綴る「地図帳の深読み」シリーズ第3弾。
どんなに小さな縮尺の地図でも鉄道と道路は書き込まれている
学校地図帳でおなじみ帝国書院が出している「地図帳の深読み」シリーズ。第3弾は、2022年に150周年を迎えた“鉄道”がテーマだ。
著者の今尾さんによれば、地図からはいろんなことが読み取れ、なかでも鉄道の存在感は大きいそう。
「どんなに小さな縮尺の地図でも鉄道と道路は書き込まれています。特に鉄道は、実力以上に目立っていることも(笑い)。地図帳の上で鉄道はたいてい黒い線ですが、道路は赤線や薄い色です。道路が鉄道の補完輸送機関だったころのままなんです」
地形との関係や、世の中の動き、国際情勢なども、地図には反映されている。
たとえば第2章で取り上げた、北海道の石狩炭田に延びた支線の多さには目を見張らされる。かつては、石炭を運び出すために、これほど多くの鉄道が敷かれていたのかと、隔世の感がある。
「3年前に石勝線夕張支線が廃止されて、炭鉱の行き止まり路線は全部なくなりました。産業構造の変化で炭鉱が閉山になり、鉄道も必要とされなくなる。鉄道は私たちの生活や、国の形とリンクしているので、鉄道を追いかけると世の中の動きも見えてきます」
今尾さんが今回の本で取り上げた中でとくに面白かったのが、大阪〜徳島間の輸送交通の変遷だそう。
「阿波の国(徳島)で栽培された染料の藍を、大消費地である摂津(大阪)まで運んだ歴史的経緯で、この区間の往来は古くから盛んでした。明治の旅客輸送は船でしたが、その後、鉄道と汽船を乗り継ぐようになり、高速船も登場。直線距離で約110キロなのに、1日何本もの航空便がありました。明石海峡大橋が開通するとそれが高速バスになる。インフラができると、がらっと輸送体系が変わるんですね」
地図から世の中の動きがわかるという点で、ドイツから北欧へ向かう「渡り鳥回廊」と呼ばれる鉄道路線の歴史的な変遷も興味深い。