体調が悪くなったときにのむ薬。しかし、どんな薬にも副作用はある。複数の種類の薬を服用すると副作用が出やすくなり、6剤以上になるとそのリスクは跳ね上がるという。都内在住の会社員のIさん(44才、女性)はこう話す。
「半月前に風邪をひいてから、ずっと調子が悪い。頭が痛くなったりぼんやりしたりして仕事にも家事にも集中できないし、お通じも悪いから食事も楽しめない。便秘薬をのんでもよくならないし、もしかして何か大きな病気の兆候かもしれない、と病院に行ったら、“薬が原因”と言われて驚きました。実際に、2週間続けてのんでいた総合感冒薬と鼻炎薬をやめたら、体調がよくなりました」
高齢者でなくても、また多剤併用に該当しなかったとしてもIさんのように無意識のうちに薬の副作用で体に不調が出るケースも少なくない。日本初の「薬やめる科」を開設した松田医院和漢堂院長の松田史彦さんは、一見して気がつかないような副作用ほど気をつけるべきだと指摘する。
「頭痛や便秘、だるさなど軽い症状であれば、そもそも副作用だと気がつくことが難しいうえ、医師に訴えても『疲れやストレスが原因』などと聞き流されることが多い。薬の副作用は無数にあり、ただの不調だと思っていたら、薬が原因であることも珍しくありません」(松田さん)
特に気がつきにくいのは全身の血流を司る心臓と血管に影響のある副作用だ。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんは、その一例としてステロイド剤を挙げる。
「免疫抑制効果が高いステロイド剤は、花粉症の治療などに使われます。花粉症の原因は、一種のアレルギー反応であり、免疫が花粉に過剰に反応することで起きるためです。しかしその一方、血糖値と血圧が上昇する副作用がある。長期的に服用するのはリスクが高い薬であることを覚えておいてほしい」
長く服用することがリスクになるのは、解熱鎮痛剤のロキソプロフェンも同様だ。
「ロキソプロフェンなど『NSAIDs』は痛みの原因となる『プロスタグランジン』と呼ばれる物質の過剰な分泌を抑える作用がある。しかしプロスタグランジンには血流を促す働きもあるため、長期的に抑制されれば血の巡りが滞り、血圧の上昇につながります。
実際、高血圧の患者がロキソプロフェンの服用を中止することで、血圧があっさり下がったというケースは散見されます。指定された用法用量の通りに一時的に使用するなら問題ありませんが、長期にわたっての継続的な服用は避けるべきです」(長澤さん)
漢方薬ののみすぎで不整脈に
さらに重篤な副作用が出るリスクをはらむ薬もある。ナビタスクリニック川崎の内科医、谷本哲也さんの解説。
「高血圧や不整脈、心筋梗塞などの治療に使われる『β遮断薬』は脈を遅くして心臓を休ませる働きのある薬ですが、効きすぎると心不全になるリスクがあります。特に、体が弱っている高齢者は注意が必要です。また、抗がん剤のように作用が強い薬の中にも、心臓に悪影響を与え、心筋症や心不全のリスクが高くなるものがあります」
いまだに特効薬のない新型コロナにおいて、有効な予防方法であるとされる新型コロナワクチンも心臓への影響が報告されている。
「確率は低いものの、人によっては接種後に心筋炎を発症することが明らかになっています」(谷本さん)