大鉄は1976年からSLの運行を開始。当時、鉄道業界の潮流は蒸気機関車(SL)から汽車、汽車から電車といった具合に動力近代化にシフトしていた。すでにSLの時代ではなくなっていたわけだが、そうした中で大鉄はSLに集客力があると考え、観光列車として活用した。大鉄のSL運行は評判を呼び、多くの観光客が大鉄に足を運ぶ。大鉄の盛況は他社をも刺激し、各地でSLブームが巻き起こった。
SL復活運転に必要な資金は約3億円
前述したように、SLを運行するには莫大な経費がかかる。また、機関士や機関助士といったSL独自の運転士を養成しなければならない。ほかにも、保守点検の作業にも専門知識や設備が必要になる。そのため、SL目的の観光客がいなくなると手間暇がかかるわりに儲からなくなる。観光列車を運行する経営的な旨味はなくなる。
経営効率を重視してSLの運行を取り止める、または運行日をGWや夏休みなどの長期休暇や土日に限定する、運転本数を減らすなど各社のSL運行は規模を縮小していった。
他社がSL運行の規模を縮小する一方、大鉄は平日でもSLの運行を続けてきた。こうしたSLへの熱い思いが伝わり、「SLといえば大井川鉄道」とまで言われるようになる。
さらに、大鉄は2014年にはテレビアニメ『きかんしゃトーマス』に登場するトーマスやジェームスなどのキャラクターを模したSLの運行も開始する。
大鉄が集客目的でSLを運行した当初、そのターゲットは鉄道少年だった。しかし、歳月とともにSLを映像や写真でしか知らない世代が増えていった。乗車体験や実際に見た記憶からSLを懐かしみ、親しみを持ってくれる客層も限られるようになった。
だが、大鉄のトーマスやジェームスを模したSLは、新たな鉄道少年を呼び寄せるとともに家族連れなどファン層の裾野を広げる。
大鉄は一貫してSLに傾注し、冒頭でも触れたようにSLを引き取った。その復活運転には約3億円が必要と試算された。クラウドファンディングで集まった約8300万円は決して小さくない金額だが、それでも2億円以上が不足している。このままでは、SLを復活運転することは難しい。
「大鉄は2025年に創立100年を迎えますが、それを目標に営業運転ができるSLを全国で探してきました。SLだったら何でもいいというわけではありません。現場に足を運び、保存状態を確認して、これなら復活運転ができると判断したから引き取りました。もともと、復活に必要となる3億円は自己調達するつもりで準備を進めてきました。幸運にも、クラウドファンディングで8000万円以上が集まりました。そうした寄付をしてくださった方々に感謝し、それに応えるためにも残り2億円以上を何とか工面して、SLを復活させる予定です」(同)
今年は鉄道開業150年という節目の年にあわせて、各地で歴史をふりかえるイベントが開催された。鉄道がSLから始まったことを考えれば、歴史的にも文化的にもその価値は十分にある。後世に継承していく必要もあるだろう。
他方、少子高齢化や過疎化といった要因により、SLの保存は動態・静態に関わらず困難になりつつある。今のところ、この難問に解は見当たらない。
SLの動態保存に積極的な大鉄は、2022年9月に豪雨災害で線路が損壊。全線で運行休止に追い込まれた。現在、一部の区間が復旧し、SLは12月16日から新金谷駅―家山駅間で運行を再開させる。
経営的には厳しくても、大鉄のようにSL運行を続ける鉄道会社もある。