「今回は何も変わらないと溜息をついて終わりじゃなく、何とか元凶を駆逐するところまで書いてみたくて。
枠組みを変えるにはまず人を変えなきゃダメなのに、重鎮達が口を出し、時計を元に戻してきた。今のままではまずいと言っていた私の同世代も退職を前にいよいよ焦り始めている。現役中に何とかしたかったのに何もできなかった、せめて自分が弾除けになるからバトンを頼むと、それは私の個人的な思いでもあります」
望月やボビーのような若い世代の試行錯誤を見守る者の存在価値は、たぶん国や時代を問わない。
「ただし我々も若い世代がトライ&エラーしてくれないことには守りようがない。たぶん挫折が恰好よかった時代はもう終わったんです。そうした齟齬はありつつ、互いの強みを生かした新しい協力や共生の形を、国や人や様々な局面で、見出していければいいですよね」
いわば0か1かではなく、0も1も共存するのが量子物理学であり、〈本当は地球上の森羅万象に近づくための考え方に過ぎないんだ〉とある。人も国も、きっと同じだ。
【プロフィール】
真山仁(まやま・じん)/1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、『ハゲタカ』で小説家デビュー。日本の諸問題に金融面からメスを入れる偽悪的ヒーロー、鷲津政彦の活躍を描く同シリーズはスピンオフも含め計7作を数え、ドラマ化や映画化もされた。著書は他に『売国』『コラプティオ』『当確師』『神域』『墜落』や、ノンフィクション『ロッキード』『“正しい”を疑え!』等。164cm、O型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2022年12月23日号