激動の2022年が幕を閉じようとしている。思い返せば今年は政財界や芸能界で多くの著名人がこの世を去った。愛して止まないあなたへ。井筒和幸氏(映画監督)が崔洋一さん(11月27日没、享年73)が“最後の手紙”をしたためた。
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崔さん。あなたが亡くなったと聞いた時は本当に驚いた。まったく知らなくて、知らせてくれた記者に「いつ死んだの」と聞いたくらいだ。
でも実は、死期が迫っているような感じは薄々してたんだ。今年の夏にさ、10回連載くらいの朝日新聞のインタビューに答えて、初めて自分の出自を公に語ってたよな。がんを患っているということは聞いていたから、そうか、崔さんも今までのことを吐き出したくなったのかなと思わせる文体だった。それで何となく、もしかして死期を感じ取っていたのかなあ、なんて改めて思うよ。
今の映画界ではもう、俺らが一番古い世代だな。俺と崔さんと高橋伴明さんと2012年に亡くなった若松孝二さん。その辺は、先鋭的な映画を作っていこう、既成の映画業界を打ち破ろうという意思を持った仲間たちだった。俺も既成メジャーの古い体質、配給システムを何とか壊したかった、彼らに磁石で吸い寄せられるように一緒に闘っていたんだ。
崔さんが「今の理事長を引き摺り下ろす」と意気込んで、2004年に日本映画監督協会の理事長に立候補した時は、「映画業界を若返らせたい」「古臭い考え方を新しくするんだ」って言うあなたに協力していこうと思って、俺の一票を預けたんだ。
それから崔さん、覚えているかな。俺はあなたに救われたこともあった。
自分の撮影現場で事故があって、そのダメージがなかなか払拭できなくて、もうそう簡単には映画は撮れないなあと思っていた時期のことだ。あなたは俺を『マークスの山』にキャスティングしてくれた。
「ちょっと冒頭で、最初に死んでるさあ、浮浪者の役なんだけど」って。「一番先にお前の顔が浮かんだよ」って。端っぽの役では一番先に俺をキャスティングしてくれたって言ってたよな。
撮影の時は、ザイルか何かで頭をパックリ切られた血まみれの特殊メイクを3時間くらいかけてしてもらったな。それで、死体の特殊メイク姿の俺が道端で寝転んで本番を待ってんだ。