7月の安倍晋三・元首相暗殺事件に端を発した旧統一教会問題で、発言がことごとく「炎上」してきた爆笑問題・太田光(57)。教団の「擁護派」とも捉えられた彼の真意はどこにあったのか。太田と番組で共演し、教団追及の先頭に立つジャーナリスト・鈴木エイト氏との誌上対談が実現した。【前後編の後編。前編から読む】
責任の大半はメディアにある
鈴木:山上容疑者が事件を起こしてメディアが大騒ぎした時、太田さんは慎重な姿勢でした。教団を取り上げてこなかった反省がないまま、「巨悪を追及する我々は正義だ」と報じるのは間違いだと発信して、そこでも「教団擁護だ」と炎上した。テレビが好きだからこそ、「今まで何をやってたんだ」という思いがあったのではないですか。
太田:それは思っていましたね。だって「空白の30年」問題の責任の大半はテレビを含むメディアにありますよ。僕は20年以上サンジャポをやっているけど、今回の事件が起きるまで一度も統一教会を取り上げたことがない。そこに目を向けず、100%正義の顔はできないなあと。
鈴木:事件前、全国弁連は参議院会館で2回、統一教会問題に関する緊急集会を開きましたが、取材に行ったのは僕ともう一人だけでした。大手メディアは完全に無視だったし、当時はニュースバリューもなかったのでしょう。
太田:恐らく1980年代よりも被害が減り、大半の人は「今はそれほど霊感商法やってないでしょう」との意識だったのでしょう。それが間違いだと山上事件で明らかになったわけで、果たして我々が政治家を責められるのだろうか、同じじゃないかと思った。
山上は凡庸な殺人者
鈴木:残る課題は山上容疑者をどう捉えるかです。やったことは悪だけど、彼の犯罪が問題を可視化させたというのは事実で、僕自身も「あいつは安倍さん暗殺事件で出てきた人だよ」ってずっと言われると思ってる。今後彼の新たな発言が出てきたとしても、僕たちはその内容を正面から受け取っていいのかという疑問があります。
太田:彼は母親が熱心な信者で兄が自殺し、自分は仕事がうまくいかず残酷な世界にいた。そこに同情する人はいるけど、彼は1度、教団総裁の韓鶴子を狙ったけど警備が厳しく標的を変えたんですよね。そこに僕は一貫性のなさを感じるんです。もし安倍さんの警備がもっと厳しかったら、今度はどこを狙ったのかと。
彼は社会を恨んでいるから、無差別殺人を犯した可能性だってある。結局、山上容疑者は凡庸な殺人者なんですよ。
鈴木:ただ、山上容疑者は他に手段がなく身を賭して行動したという視点も持つべきでしょう。すべて計算した上で悲劇のヒーローを演じたという視点と、裏のないギリギリの行為だったという振れ幅の中で考えないといけません。
太田:たとえそうだとしても僕は山上容疑者を批判します。何より思うのは安倍さんの遺族のことですよ。ある日普通に出かけて、あんな殺され方をして、もう二度と帰ってこない遺族の気持ちを、お前が一番わかっているはずじゃないかと。
鈴木:兄が自殺して「兄ちゃん、何で死んだんや」と泣いた気持ちを、安倍さんの遺族に味わわせているわけですからね。
太田:よく誤解されますが、僕は統一教会の追及をやめろとは一度も言ってない。ただ同時に、安倍さんの暗殺はテロ行為であり山上容疑者は殺人者であることを、教団を追及するのと同じ熱量で伝えないといけない。ほとんどの人に「太田は追及をやめろと言ってる」と捉えられちゃったけど。
鈴木:2世信者を含めた教団の被害者が教団に刃を向けることはあると思っていたけど、飛躍して教団と関係のある政治家を狙うことは完全に想定外でした。考えが及ばなかった反省もあります。
太田:唯一良かったのは、苦しんでいる2世信者の存在が明らかになったこと。宗教問題なのか、子供の虐待なのかという問題はあるけど、議論は進んでますもんね。