夜ごとに無数の札束が飛び交うホストクラブだが、その中でも別格なのは1年間で1億円以上の売り上げがある“1億円プレーヤー”と呼ばれるホストたちだ。彼らは何を武器にしてこの天文学的な数字を叩き上げるのか。そして、「億」を貢ぐ女性たちは一体何者なのか。歌舞伎町の住人たちを取材した著書『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』を持つノンフィクションライターの宇都宮直子氏がレポートする。
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夜な夜な歌舞伎町に通い、ホストクラブで大金を使う「ホス狂い」の取材を進める中でわかったのは、ホストたちの“主戦場”が店だけではないことだった。直接会うのに加えて、LINEで日々連絡を取り合い、TwitterやInstagramをフォローし合う。こうしたSNSは両者のコミュニケーションツールとしてだけではなく、女の子同士が交流を深めたり、ホストたちが店の宣伝や自己アピールを綴る場としての役割も果たしている。それゆえ大手ホストクラブの幹部キャストたちはSNSでも人気者で、中には芸能人やインフルエンサー顔負けのフォロワー数を誇るホストもおり、そこで発信される情報はホス狂いの女の子たちとの会話の糸口になることが多かったため、私自身、定期的にチェックをするようにしていた。
2022年10月27日のこと。いつものように有名ホストやホス狂いのツイートをチェックしていると、あるホストの投稿が目に留まった。
それは「ベルサイユ理事長 タイキ」というTwitterアカウントの《タイキ、ゼクシィマンション男 ベルサイユ 『X』を退店した。》というものだった。(※『X』は歌舞伎町の名門老舗ホストクラブのことで、実際の投稿では実名だったが、ここでは『X』とする)
同店はテレビドラマや映画のロケにも多く使用され、有名ホストを多数輩出している超有名店だ。中でも、「タイキ」氏は、歌舞伎町内でも30人ほどしかいないと言われる「1億円プレーヤー」として店外にも名を馳せる存在だった。
もちろん筆者も彼の存在は以前から知っていた。初めて姿を目にしたのは2021年9月上旬。取材相手に誘われ、『X』を訪れた時のことだ。
漆黒で固められたインテリアの中央には宇宙をイメージしてデザインされたシャンデリアが輝き、鏡張りの店内では照明がキラキラと星のように反射している。店内では、平日の早い時間にもかかわらず、思い思いに着飾った女性たちが、最低でも推定5万以上はするであろう高価なシャンパンをポンポンとあけていく――。嬌声を上げる彼女たちの卓と卓の間を、高級ブランドのロゴが大きく入った服に身を包み、くまなく化粧をほどこした美しい男性たちが、かけまわっている。
その中でもひときわ目を引いたのが、タイキ氏だった。他のホストが、皆一様に中性的で線の細い印象を受ける中、身長185センチで派手な柄のシャツを着こなし、大股でフロアーを闊歩する彼の姿は、サングラス越しで表情もうかがえないこともあり、他のホストたちとは違う独特のミステリアスなオーラを放っていた。当時、タイキ氏はその月のナンバー1で、月間売り上げは2600万円超だ。
同店の公式ホームページを覗いてみると、彼のプロフィールには「前職はカンボジアで地雷撤去 夜はジャングルでハンティング」と異色すぎる経歴が書かれていた。タイキ氏の姿は取材で何軒もホストクラブを回った中でも異彩を放っており、強く印象に残っていた。
そんな彼の突然の退店報告は、歌舞伎町内に大きな衝撃を与えた。
通常、人気ホストが店を辞めるとなれば、「引退セレモニー」が開かれシャンパンが次々に空き、札束も飛び交う中で華々しく見送られることがほとんどだ。しかしタイキ氏はひっそりと店を後にしている。1億円プレーヤーに一体何が起きたのか。
話を聞くべく、タイキ氏にSNSを介して取材を申し込んだ。2時間のインタビューから見えてきたのは、未経験から3年たらずで億を売り上げたホストの「素顔」と女性たちに大金を課金される男性側の偽らざる「本音」だった。