未経験からのスタートながら2年という短い期間で億を売り上げる「1億円プレーヤー」となったタイキ氏。元甲子園球児、そして前職はカンボジアでの地雷の撤去という異色すぎる経歴を持つ彼は“地雷原”から“歌舞伎町”という“夜の戦場”へとステージを移し、瞬く間に頭角を現していく。入店一年目には年間7000万円を売り上げ、グループの「新人王」を獲得した。前編に続き、歌舞伎町の住人たちを取材した著書『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』を持つノンフィクションライターの宇都宮直子氏がレポートする。
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「一番やってくれているエースの女性がいるんですが、新人王を獲得した後あたりに彼女から初指名が入った。さらにその2か月後くらいに、その女性の次に使ってくれる40歳くらいの方の指名も入るようになった。結局、入店から半年くらいで4人の高額を使ってくれるお客さんがついてくれました」(タイキ氏・以下同)
「太客」を次々と掴み、入店半年にして3000万円以上、そして一年で7000万円という驚異的なスピードで売り上げを立てていったタイキ氏。月の売上げが10万円に満たないキャストが4割といわれるホスト業界において、異色の新人といえるだろう。だが、彼の前に立ちはだかったのが「億の壁」だったという。
「7000万円を売り上げて、1億円はかんたんに届くと思ったら、どうしても億にいかなかったんです。『壁』『壁』『壁』……。これまでの人生で『壁』ってあんまり感じたことはなかったんですけど、『1億』には壁を感じた」
タイキ氏はサラッと口にするが、年商「億」といえば、通常の勤め人ではまずありえない、プロスポーツ選手であってもなかなか達成できない金額である。ましてや原価がいくらとも知れない「消えもの」に対し、自らの魅力やトークのみで「億」を売り上げるということなど、想像の余地もない。
「僕は、4人のエースの方の“頑張り”のおかげで7000万円まではいけたのですが、とにかく『あと3000万円』が難しかった。たとえば1000万円であれば、年間で見たらひと月85万円を売ればいいので、ひと月10万円ちょいの“少額”をつかうお客さんが10人くらいいれば、その積み重ねでなんとかなるんです。2000万円も3000万円もそういうところがある。
通常のホストであれば1000万円や2000万円の売り上げを、少額を使うお客さんを中心に積み重ねていく。その後、それ以上の売り上げが立てられずに伸び悩んだときはその過程で高額のお客さんを捕み、何年かかけて上がっていくというパターンなのですが、僕の場合は逆だった。まず、4人の高額を使うお客さんたちがいたから、彼女たちを中心に支えてもらっても、ちょうど7500万円で止まっちゃう。みんなが出来ている『小さな積み重ね』ができていなかったんです。それを意識するようになったことによって、去年、2年目にして『億の壁』を超えることができたのです」
「高額の客がつくホスト」と「つかないホスト」の違い
これまで女性側から、いかにして自分が愛する「担当ホスト」のために大金を作り店に通っているか、いかに自分が担当のことを好きかという「担当と自分」ふたりだけの物語を聞き続けてきた私にとって、この「経営計画」は驚きだった。物語を紡ぐためにお金も時間も体力も費やす女性がいる一方で、男性側は、あくまでも「ビジネス視点」があり、売り上げのためにはいくらを使う女性が何人……と逆算し、冷静に戦略を立てているのだ。
だが札束飛び交う歌舞伎町でも「1億円プレーヤー」は一握りだ。なぜ、タイキ氏は「億」を売り上げることができたのだろうか。また「高額の客がつくホスト」と「つかないホスト」の違いはどこにあるのだろう。
「初回でついてくれるお客さんの数は、そんなに変わらない。わりとみんなに平等についていると思う。だからそのお客さんが続けてきてくれるかどうかではないでしょうか。そこはやっぱり相手からみて『遊びで終わらせる相手か、終わらせないのか』ということ。『飲み屋のにいちゃん』で終わるかどうか。『女性がそこに人生を賭けているか』どうかです。『この人が本当に人生そのものだ』ってなっているかどうか。それとも『気分よくなった。お金が入ったから飲みに行こう』というだけの相手なのか。そこに尽きると思います」