赤川:半面で、年を重ねたからこそわかることもある。初期に書いていたミステリー小説では殺人をいっぱい起こして15人ぐらい死んでいたんですけど、いまは犠牲者は1、2人になった(笑い)。子供を育ててみて、ひとりの人間が赤ん坊から大人になるまで育てることがいかに大変で、死んだらどれだけ周囲の人間にも悲しみを与えるかを知ったことが大きかった。
和田:だけど、何も事件が起こらないと刑事さんの出番がなくなるから……(笑い)。
赤川:そうなんです(笑い)。だから死ななくても物語が成立するようなら「命は取り留めました」とか、そんな形で書くようになってきた。正直、新人賞をもらったときは74才になるまで書いているとは思わなかった。いまは長生きをした人間として、これまでの人生で自分に蓄積したものを後ろの世代に伝える役目があると思っています。
和田:年を重ねることで自由で楽しい人生を送れると身をもって伝えるのも大事だと思います。だからきっと、ぼくらが「いまを受け入れて好きなように生きたら元気で長生きできる」ということを示せば、自分の幸せだけでなく、周囲のためにもなるんじゃないかな。
(了)
【プロフィール】
赤川次郎(あかがわ・じろう)/1948年、福岡県生まれ。1976年『幽霊列車』でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、小説家デビュー。ユーモア・ミステリー、サスペンス、恋愛小説と幅広いジャンルで活躍し、1980年に『悪妻に捧げるレクイエム』で角川小説賞、2016年には『東京零年』で吉川英治文学賞を受賞。『三毛猫ホームズの推理』『セーラー服と機関銃』『夢から醒めた夢』など映像化・舞台化作品も多数。累計発行部数は3億3000万部を突破している。
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。精神科医。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上高齢者医療の現場に携わる。診療の傍ら、医療や受験など幅広いテーマで執筆を行い、著作『80歳の壁』は2022年の年間ベストセラーに。
撮影/chihiro.
※女性セブン2023年1月5・12日号