大みそかに放送される『第73回NHK紅白歌合戦』の出場歌手が発表されると、SNSを中心に「若者に媚びている」といった批判が相次いだ。新人のK-POPグループやアイドルなど、10組が初登場の一方、演歌や歌謡曲の出場者は年々減り続けている。中高年を置き去りにするような人選に、受信料を払っている中高年層から不満の声があがっているのだ。
この状況には、NHKの関係者からも疑問の声が上がっている。元NHKディレクターで、阪南大学国際コミュニケーション学部教授の大野茂氏が指摘する。
「今年のラインナップから、紅白がそのスピリッツを失ったことが窺えます。私は1990年代後半から2010年頃までNHKで働いていたのですが、当時、紅白歌合戦のチーフプロデューサーを務めた小林悟朗氏(故人)が発していた『紅白歌合戦とはなんだと思う?』という問いと答えが強く印象に残っています。
紅白というのは当時から、若者からすれば知らない演歌歌手が出場している一方、中高年にはよくわからないアーティストばかりという指摘もされていた。小林氏は『その世代間ギャップを大みそかに改めて認識することで、家族がお互いのことを理解する。そのきっかけになる番組だ』と語っていました」
いつの時代も親や祖父母と子や孫の間には理解が難しいズレがあり、それを埋めるためのコミュニケーションのきっかけの一つになるのが、大みそかに家族でテーブルを囲んで見る紅白歌合戦だという考え方だ。大野氏が続ける。
「小林氏は、『日本中の誰もが放送日を知っているのが紅白。そして、一番ターゲットの広い番組なんだ』とも語っていました。核家族化が進む日本で、最も家族が集まりやすい日に各世代の流行ソングを放送することで、バラバラになった家族をもう一度少しだけでも結び直すことができるかもしれない。そういう気持ちで番組作りをしていたと教えてくれました。
2000年代前半当時のNHKには、まだ中高年の視聴者も大切にしようという方針がありました。今年のラインナップを見る限り、残念ながらみんなで見るはずの紅白が若者に寄せてられていったことは否めません」