映画『おくりびと』(滝田洋二郎監督、二〇〇八年)は葬儀の納棺師を描いた作品だ。それだけに、遺体と向き合うシーンが多くなる。この映画では、そうした遺体は実際の俳優ではなくダミー人形を用いて撮影が行なわれているのだが、これが本物の遺体と錯覚するほどのリアルさだった。そのダミー人形を作成した、日本の特殊メイクの第一人者・江川悦子氏に、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が創作の裏側を聞いた
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江川:ご遺体役を役者さんに横たわって演じていただくと、難しいことがあります。着替えさせるのもそうですし、特に髭を剃るというシーンがあるんです。
その場合、役者さんだと顔を触られると、どんなに頑張ってもどうしても瞼とかが動くんですよ。ご遺体としてそれはおかしいから、人形を使おうということになったようです。それで「リアルに作ってくれる人」ということで、誰かが私の名前を挙げてくださったみたいでした。
監督は最初、半信半疑だったんだろうなと思います。いろいろ初歩的な質問を受けましたから。「ご本人に似せることはできます」というお話をして、過去に私の手がけた作品も見ていただいて、それで作るということになりました。
――どのような手順で作られたのでしょうか。
江川:まず、俳優さんの顔の型だけはとらせていただくんですよ。それ以外のボディは採寸したりしたものからこしらえていきます。
幸い、目を閉じた状態で型をとりますから、成形時にさほど大きくいじらなくてもよかったんです。あとはそこにリアルな皮膚感などをつけていけば大丈夫でした。
――リアルさを出す上で、特にどのような点を心がけられたのでしょうか。
江川:たとえば毛髪や眉は、かつらではなくご本人と同じになるようにパンチングを使って毛を刺しています。植毛しないとリアリティが出ないんです。
だから、植えやすいように顔の素材は柔らかいシリコン製にしています。目を開ける場合は義眼もこしらえています。