いまだ収束の糸口が見えないウクライナ戦争。それを好機とみるのが中国だ。台湾侵攻だけでなく、その“魔の手”は日本の目と鼻の先まで伸びてきている。安全保障研究者の小泉悠氏、ジャーナリストの峯村健司氏、国際政治学者の細谷雄一氏の3氏が2023年の外交問題について語り合った。【全3回の第1回】
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細谷:昨年2月に勃発したウクライナ戦争は当初の予想を裏切って年を跨ぎました。NATO(北大西洋条約機構)加盟国はすでに次の冬(2023~2024年)に向けたエネルギーの確保を進めており、戦争があと1年は続くとの見通しを持っています。
小泉:プーチンがウクライナに求めるのは、中立化と非武装化です。
要は、ロシアの属国になれという要求で、ゼレンスキーには到底のめない。偉大なロシアを守る使命に燃えるプーチンも一歩も引かず、来年3月の大統領選を見据えながら、長期戦に持ち込んで西側の息切れを狙っています。
細谷:NATOでは、地理的にロシアに近いポーランドやバルト三国が妥協を拒み、ドイツやフランスは一時的な停戦に傾き、かつての影響力を失ったアメリカは国内の意見が割れています。自国の利益を第一に考える周辺国の動向も、戦争終結を左右します。
峯村:その意味では、米露と並ぶ「帝国」である中国が重要でしょう。中国は米軍の武器や弾薬の備蓄状況を注視しつつ、プーチンの長期戦を支えることが、悲願の台湾併合にプラスになると判断し始めています。
小泉:おっしゃる通り、ウクライナ戦争が長引けば米軍の防衛努力がヨーロッパに向けられることになるので、台湾有事への対応力が低下します。つまり、ウクライナでずっと揉めるのは中国にとって悪い話ではない。
峯村:一方で中国政府当局者は、ウクライナと台湾をセットで語られることをものすごく嫌います。完全な独立国家であるウクライナへの侵攻と、中国の一部である台湾を併合することは全く異なるロジックと言いたいのでしょう。
いつ起きてもおかしくない
小泉:注目の台湾侵攻はどのタイミングが考えられるでしょうか。
峯村:昨年11月の台湾統一地方選で親中路線の野党・国民党が大勝しましたが、これで「台湾有事が遠のいた」とみるのは時期尚早です。実際に台湾では、半数以上が台湾人としてのアイデンティティを持っており、中国批判で票を稼ぐ国民党の議員も少なくない。しかしそうした都合の悪い情報は取り巻きが忖度して、一強となった習近平氏まで上がりにくい。中国が台湾に歓迎されていると勘違いした習氏が、台湾侵攻のスケジュールを早めるかもしれません。
細谷:中国は諸悪の根源と考えるはずの蔡英文・総統を選挙で打倒したいと考えている。平和的な再統一が進まない場合は、習近平が現状に怒り暴走する恐れがあります。