放送前から注目を集める嵐・松本潤主演のNHK大河ドラマ『どうする家康』。脚本を務めるのは古沢良太氏だ。昨年は1年を通して三谷幸喜氏脚本の『鎌倉殿の13人』が話題となったが、『どうする家康』はどんな作品になるのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが2人の脚本家の類似点とともに解説する。
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8日夜、2023年の大河ドラマ『どうする家康』がスタートします。
同作の主人公は誰もが知る徳川家康であり、演じるのも国民的アイドル・嵐の松本潤さん。家康と並び立つ三英傑の織田信長を岡田准一さん、豊臣秀吉をムロツヨシさんが演じることなども含め、知名度の高い“個”をベースにした作品である様子がうかがえます。
しかし、そんな登場人物やキャストにも負けない強い“個”として業界内で注目を集めているのが、脚本を担う古沢良太さん。これまで映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ、『キサラギ』、『探偵はBARにいる』、『エイプリルフールズ』、『ミックス。』、ドラマ『ゴンゾウ 伝説の刑事』(テレビ朝日系)、『外事警察』(NHK)、『鈴木先生』(テレビ東京系)、『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)シリーズ、『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジテレビ系)、『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系)などを手がけ、業界内で「天才」とも「奇才」とも言われる脚本家です。
古沢さんに業界内の注目が集まっている理由は、その実力や実績によるものだけではありません。昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を手がけた三谷幸喜さんも同じく「天才」とも「奇才」とも言われる脚本家であり、いまだ「鎌倉殿ロス」という声がある中、比較は避けられないからです。
しかも古沢さんの『どうする家康』と三谷さんの『鎌倉殿の13人』には、類似点が6つもありました。
古沢・家康と三谷・義時の類似点
『どうする家康』の予告映像は、家臣たちの「殿!」「殿!」「殿!」「殿!」という呼びかけに合わせて、桶狭間の戦い、大高城兵糧入れ、鵜殿城攻略、三河一向一揆、姉川の合戦、三方ヶ原の戦い、長篠の戦い、信康自害、本能寺の変、伊賀越え、小牧長久手の戦い、関ヶ原の戦い、征夷大将軍、大坂夏の陣という文字が次々に浮かび上がり、最後に「どうする?」と問いかけるところからスタートします。
当作の主な構成は、このように「家康が次々と迫るこれらの危機にどんな選択をしていくのか」。これまで家康と言えば「ずる賢い」「忍耐の人」「たぬき親父」というイメージでしたが、古沢さんは「ナイーブで頼りないプリンス」として描くことを明かしています。最初から大志を抱いていたわけではなく、「戦が嫌いなのに戦うことを余儀なくされ、強敵だらけの中で生き延びる術を模索していく」という出発点は、三谷さんが手がけた『鎌倉殿の13人』の主人公・北条義時(小栗旬)と似ています。
注目すべきは、古沢さんの徳川家康も三谷さんの北条義時と同じように、歴史上の大人物というより、ダメなところのある人として描こうとしていること。「臆病かつ優柔不断で、ピンチの連続に迷い悩みながらも前に進んでいく」という人間味のある親しみやすい人物像であり、真面目な性格だからこそ時に笑いを誘われることになるようです。
はたして家康は次々に訪れるピンチを切り抜けることで、義時のように少しずつたくましさを身につけていくのか。家のため、世のために、冷酷な一面を見せながら覚醒してくのかにも注目です。
また、もう1つ特筆すべきは、“歴史的人物の一代記”という大河ドラマのベースを守りながらも、「誰が天下を取るか」という男のロマンではなく、家族や家臣の物語を重視したホームドラマのようなムードがあること。家康も義時も自分が天下を取ることより、家族や家臣を守ることを優先させているところが似ています。
史実に忠実ながら笑いもたっぷり
さらに古沢さんと三谷さんの類似点は、登場人物の描き分けが巧く、それぞれ個性たっぷりで愛きょうがあること。たとえば『鎌倉殿の13人』の御家人たちがそうだったように、『どうする家康』の酒井忠次(大森南朋)、石川数正(松重豊)、本多忠勝(山田裕貴)、本多正信(松山ケンイチ)、鳥居忠吉(イッセー尾形)、大久保忠世(小手伸也)、服部半蔵(山田孝之)などの松平(徳川)家家臣たちも、一人ひとりがスピンオフを作れそうなほど生き生きとした姿で描かれることが予想されています。