「体にいい」はずの食べ物で、かえって体調が悪くなったことはないだろうか。それは遺伝子レベルの拒否反応かもしれない。私たちの体が本当に欲する栄養は一体何なのか。長年、日本人の「遺伝子」と「体質」を研究してきた予防医学の第一人者である内科医・奥田昌子さんが解説する。【短期集中連載1回目】
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「牛乳を飲んでカルシウムをしっかり摂取」「白米をやめればやせる」「ヨーグルトで腸の善玉菌を増やそう」。テレビや雑誌には健康情報があふれています。ただ長生きするのではなく、元気に長生きしたいと願う人は多いでしょう。しかし、これらの健康法は日本人にも効くのでしょうか。
世界各地で暮らす人々は少しずつ遺伝子を変化させながら、その土地の食文化、生活習慣、気候風土に適応し、それぞれ異なる体質を身につけました。たとえば、日本人は伝統的にお米をはじめとする穀物を食べてきたため、肉と乳製品が食事の中心だった欧米人とは胃の形も腸の働きも違います。
穀物には食物繊維が多いので、消化するのに手間がかかります。そのため、日本人の胃は袋のように縦に長く、出口が高いところにあって、食物繊維を粉々に砕いてから腸に送り出せるようになっています。そして腸には、穀物が含むでんぷんを消化して、栄養をしっかり引き出すのに役立つ腸内細菌がたくさんすんでいます。
「お米は太るから食べない」という人がいますが、日本人は食べたお米を効率よくエネルギーに変えることができるため、食べても体を充分に動かしてさえいれば、肉や乳製品とくらべて、むしろ太りにくい食品といえます。
もう1つの例が、日本人はお酒に弱い遺伝子を持つ人が多いことです。お酒に強い方が楽しめるのに、と残念に思うかもしれませんが、実は日本人はお酒に弱いからこそ生き残ってこられたと考えられています。
飲んだアルコールは肝臓でアセトアルデヒドという有害物質に変わります。お酒に弱い人はアセトアルデヒドを分解する力が弱いため、アセトアルデヒドが体にたまります。
これだけ聞くと悪いことのように思えますが、アセトアルデヒドには寄生虫を死滅させる力もあるのです。そのため、古い時代にマラリアなどの病気を引き起こす寄生虫が水田で繁殖したときも、日本人は血液に溶けているアセトアルデヒドのおかげで寄生虫が体内で活発に活動できず、その結果生き延びやすかったようです。実際に、日本でマラリアが近代まで発生していた地域は、お酒に弱い人が最も多い地域でもあります。
体内にアセトアルデヒドがたまりにくい人、つまりお酒に強い人はマラリアのまん延を生き抜けなかった可能性があるのです。