火葬場と聞くと、怖いし気味が悪いしで遠ざけたいような、詳しく知りたいような複雑な気持ちがするもの。『火葬場奇談 1万人の遺体を見送った男が語る焼き場の裏側』(竹書房)は、一級火葬技師として、実際に火葬場で遺体を焼く仕事をしていた下駄華緒氏が、火葬場の過酷な裏側を明かしたホラーエッセイ。怖いもの見たさで恐る恐る手に取ったものの、読み進めるうちに、著者が遺族や遺体に、真摯に向き合っていた姿勢がひしひしと伝わり、背筋が伸びる一冊だ。【前後編の後編。前編から読む】
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家族を亡くした遺族が、故人を思って棺に入れる副葬品。結婚指輪やネックレスなどの貴金属を入れることも少なくない。自治体によっては、火葬後、これらの貴金属を業者が回収し、収益を得ているところもあるというからビックリだ。
「貴金属は焼くと、溶けてベチャッと台に張り付いていることが多いのですが、その収益は自治体の『その他雑収益』に計上されていたり、火葬場の改修費用に充てられたりしています。こうしたことは秘密裏に行われているわけではありませんよ。公表している自治体もあります」
下駄氏はこうした事実を積極的に広く知らせた方が良い、とする考えだ。
「役目を終えたものを、新しくもう一度、活かすという考えは素敵だと思うのです。それにこうした事実を知れば、ご遺族は副葬品として棺に入れ別の方に新しく活かしてもらうか、『私が持っておこう』と考えるか、選択肢が広がります。どうするか判断する材料として、むしろ知っていただきたいと思います」
遺体の火葬を無事に終えた後は、遺族によるお骨あげがある。その段階では、またさまざまな出来事に遭遇する。
「遺族間に確執があり『どちらが大切な喉仏の納まっている骨壺を連れて帰るか』で揉め、骨折するほどの掴み合いになるのを見たことがありました。かと思えば、暴力団員のお骨上げでは、抗争の後なのか、松葉杖の方、車いすの方、包帯を巻いている方などけが人が多数。
子分が小さな骨を骨壺に納めようとすると、親分が松葉杖でバチーンと子分の顔面を殴りつけ、『そんな小さいしょうもない骨を入れるな! でっかいの入れろ!』と命じていたこともありました。小さい骨がしょうもないわけでもないのですが……」
暴力団排除条例が制定・施行されたとはいっても、亡くなったら火葬しないわけにはいかない。組員が火葬場にズラリ、ということも起こりうるわけだ。
「でも、恐いというより、彼らは非常に礼儀正しかったりします。親分がいるから、変なことはできないのでしょう。キビキビとして、非常にスムーズなお骨あげになることがほとんどですよ」