映画『おくりびと』(滝田洋二郎監督)では、遺体の撮影にダミー人形が使われ、これが実際の俳優と錯覚するほどのリアルさだった。それを創作した特殊メイクの第一人者・江川悦子氏に、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、どのような毛を使ったのかをうかがった。
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――実際の人間の毛を使われたのですか?
江川:人毛の場合もあります。ですが、たとえば眉とかですと、動物の毛で、ちょっと毛先が細いものとか。様々な素材を試しながら、どうやったら人間の状態に近くなるかと考えていつも選んでいます。
――そうした毛の素材はあらかじめストックしてあるのですか?
江川:けっこうそろえていまして、人毛、動物の毛、人工毛とあります。特に動物の場合は、ちゃんとリアルな動物の毛を作る会社がアメリカにあって、ゴリラだ、トラだと指定すると、その毛に近いものを作ってくださるんです。そういう会社に頼んで、よく使うものはストックとして持つようにしています。犬とか、頻度が多いんです。ラブラドールだったり様々な犬が映画の中に登場して、終盤で亡くなっていきますよね。『クイール』(2003年)もそうでしたけど。
長い動物毛って日本では手に入らないんです。仕方なくボア生地といって、生地屋さんにあるフェイク・ファーを流用したこともありました。でもそれだと短くてリアリティが出ないことも。短毛種の犬はそれを使う場合もあります。
そうやって、作品によって必要な毛は様々なので、普段から持っていたりはするのですが、新たに注文が来て、持っていなかった場合は、それに沿う材料をまず探します。
――注文が来た段階で、「これにはこういう毛が合うな」と発想されるのでしょうか?
江川:そうです。「これは、あれの毛がいいんじゃないか」と、アイデアが出てきますね。過去の引き出しから出す、みたいな感じです。