スポーツ

県岐阜商・鍛治舎巧監督 先天性難聴の投手に「障害を言い訳にしないでほしい」と叱った理由

県立岐阜商業の投手・山口恵悟(筆者撮影、以下同)

県立岐阜商業の投手・山口恵悟(筆者撮影、以下同)

 甲子園常連の伝統公立校として知られる県立岐阜商業を率いる鍛治舎巧監督。先天性難聴の投手・山口恵悟に対して、厳しくも温かく接することで本人の成長を促している。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。【前後編の後編。前編を読む】

 * * *
 今年5月に72歳になる県立岐阜商業の鍛治舎巧監督をして、先天性難聴のハンデを持つエースの山口恵悟は「誰よりも感受性が強い」との印象があるという。

「好投して有頂天になったかと思えば、打ち込まれて落ち込んでしまう。だからこそ、甲子園で負けたあと、昨年の秋は気持ちが沈み、妙に考え込んでしまい、本調子にほど遠かった。そしてとうとう学校を辞めたいと言い出したんです」

 鍛治舎監督は全部員とLINEでつながり、ナインとのコミュニケーションを欠かさない。とりわけ山口に対しては、ミーティングで話した内容を監督自ら文字に起こしてLINEで送ったりもしてきた。

 鍛治舎監督と一対一の対話に臨むため、制服姿で現れた山口に対し、鍛治舎監督は山口の申し出を拒絶し、そして山口のLINEにある文面を強く非難した。

「なんだあの文章は!」

 山口のプロフィール欄には、「僕は生まれつき難聴で……」と、自身が抱えるハンデを紹介していた。

「そんなことはみんな初めから分かっているだろう! お前は覚悟して(県岐商に)入ったんじゃないのか! (障害があることを)言い訳にしているのか」

 障害者だからと卑下し、仲間との間にも壁を作ろうとしている山口が鍛治舎監督には許せなかったのだ。

「そのやりとりのあと、練習に参加するようになり、LINEの紹介文も次の日には消えていました。しっかりと対話できれば、素直な子なんです。昨年末にも、体育の授業中に何か嫌なことがあったみたいで、体育を終えるとコンビニに寄って自宅に帰ってしまった。その時は次の日の日誌に『すみません。自分の気の弱さで練習を休みました。また頑張ります。夏の甲子園でまたマウンドに立ちたいです』と書いてきたので、もう大丈夫かなと」

 山口に対して、健常者の選手以上に厳しく接してきた理由を鍛治舎監督はこう説明した。

「先天性の病気のある子供を持つご両親は、障害を持って生まれた自分たちの子供に対して負い目があるのか、過保護になってしまいがちです。すると、わがままな子に育ってしまう可能性がある。ですから、僕は彼を特別扱いしていません。いずれ社会に出たら、障害があるからといって、特別扱いされることはありませんから、今から、独り立ちできるように訓練させたい。彼の両親には、『僕は厳しく接しますから、家庭では優しく、フォローしてあげてください』と伝えています。健常者とのコミュニケーションのように円滑とはいえないかもしれませんが、今の時代はメールやLINEがあり、山口も悩みがあったら報告してくる。素質のある子ですから、野球人として大きく成長して欲しい」

関連記事

トピックス

隣の新入生とお話しされる場面も(時事通信フォト)
《悠仁さま入学の直前》筑波大学長が日本とブラジルの友好増進を図る宮中晩餐会に招待されていた 「秋篠宮夫妻との会話はあったのか?」の問いに大学側が否定した事情
週刊ポスト
新調した桜色のスーツをお召しになる雅子さま(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
雅子さま、万博開会式に桜色のスーツでご出席 硫黄島日帰り訪問直後の超過密日程でもにこやかな表情、お召し物はこの日に合わせて新調 
女性セブン
NHKの牛田茉友アナウンサー(HPより)
千葉選挙区に続き…NHKから女性記者・アナ流出で上層部困惑 『日曜討論』牛田茉友アナが国民民主から参院選出馬の情報、“首都決戦”の隠し玉に
NEWSポストセブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバム、
「『犯罪に関わっているかもしれない』と警察から電話が…」谷内寛幸容疑者(24)が起こしていた過去の“警察沙汰トラブル”【さいたま市・15歳女子高校生刺殺事件】
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
2024年末、福岡県北九州市のファストフード店で中学生2人を殺傷したとして平原政徳容疑者が逮捕された(時事通信フォト)
《「心神喪失」の可能性》ファストフード中学生2人殺傷 容疑者は“野に放たれる”のか もし不起訴でも「医療観察精度の対象、入院したら18か月が標準」 弁護士が解説する“その後”
NEWSポストセブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバムと住所・職業不詳の谷内寛幸容疑(右・時事通信フォト)
〈15歳・女子高生刺殺〉24歳容疑者の生い立ち「実家で大きめのボヤ騒ぎが起きて…」「亡くなった母親を見舞う姿も見ていない」一家バラバラで「孤独な少年時代」 
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《広末涼子が釈放》「グシャグシャジープの持ち主」だった“自称マネージャー”の意向は? 「処罰は望んでいなんじゃないか」との指摘も 「骨折して重傷」の現在
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
週刊ポスト