大相撲初場所は1横綱1大関という異例の番付のうえ、横綱・照ノ富士が全休だが、土俵外でも危機がある。親方として人気を博した元関脇・豊ノ島が突然の廃業──その裏には国技を蝕む「年寄株問題」が垣間見える。【全3回の第1回】
なぜ、元関脇・逆鉾の未亡人から年寄株「井筒」を借りられなくなったのか──その問いに対して豊ノ島は、事務所を通じて「今回のご依頼はご遠慮させていただきます」と回答するのみだった。
1月4日、井筒親方だった豊ノ島(39)が相撲協会を退職すると発表された。自身のSNSには〈相撲協会を離れ外から豊ノ島として相撲界を応援し、盛り上げたいなと思っております〉と投稿。今後は「タレント・豊ノ島」として活動するという。
角界の関係者、大相撲ファンに衝撃が走った。現役時代には小兵ながら速攻相撲を武器に活躍。2020年4月に引退して井筒親方となってからも、明るいキャラクターと巧みな話術で人気を博した。相撲担当記者はこう言う。
「しゃべりが達者で、YouTubeの日本相撲協会公式チャンネル内の“親方ちゃんねる”企画の常連でした。昨年10月の『大相撲ファン感謝祭』ではのど自慢に出場したり進行役をこなすなどファンの評判もよく、40歳を前に協会を退職したのは相当な驚きです」
時津風部屋の部屋付き親方だった豊ノ島だが、協会に残れば年収1000万円以上。その立場を離れた背景に見え隠れするのが「年寄株」問題だ。
「元力士が親方となるには105ある年寄株のいずれかを襲名する必要がある。豊ノ島は引退時に年寄株を取得できず、襲名した『井筒』は権利を借りただけの“借り株”でした。その借用期限が昨年末までで、他に借りられるような年寄株もなかった」(協会関係者)
好待遇の雇用が保障される年寄株の“椅子取りゲーム”は激しい。かつては高額売買が横行し、「バブル期は相場が数億円に高騰」(同前)。何度もトラブルが起きて制度改革が叫ばれたが、本質は何も変わっていない。
2014年の相撲協会の公益財団法人化に際しては、税制上の優遇措置を受けるうえで、構成員の資格が高額で売買されていることが問題視され、年寄株は協会の一括管理となった。だが、ある若手親方は実態をこう話す。
「内情は変わっていない。規定上は金銭による売買ができなくなり、株の貸し借りも禁止された。ただ、協会が株を買い取る案は財政難で実施されず、その結果、親方が後継者を推薦できる権利や、先代親方へ顧問料などの名目で金銭の支払いを認めた。謝礼金やアドバイス料など金銭が発生する仕組みが残されたのです」