3年ぶりに、男たちの咆哮が参道を駆け抜けた──。1月10日に開催された「開門神事福男選び」は、えべっさんの総本社・西宮神社(兵庫県西宮市)の恒例行事。新型コロナの影響で中止されていたが、この日は待ちに待った5000人の参拝者が詰めかけた。
表大門から本殿までの参道はおよそ230メートル。午前6時の「開門!」の号令を合図に参道を駆け抜け、上位3人が多くの人に福を授ける「福男」と呼ばれる。
「開門と同時になだれ込む、静から動への爆発力。あの光景をまた見たい、と準備してきました。終わったと同時に課題も見えてきており、今後も安全に、最高のものをご用意できるよう、試行錯誤していきます」
神事を取り仕切る開門神事講社代表の平尾亮氏は、涙で言葉を詰まらせながら、そう語った。
参拝者の一人、一番福を目指して挑戦し続けるのは、市議会議員の大迫純司郎氏だ。
「生まれも育ちも西宮の私には、福男は幼い頃から身近な存在。初めて福男になって以降も一番福を目指す一方、皆様に福をお渡しする存在になりたいとの気持ちが生まれました。議員になったのも、その気持ちからなんです」(大迫氏)
大迫氏は2005年と2009年に福男に選ばれた。
一番福にだけ価値があるのではない
開門神事講社は、西宮神社の公認団体として運営の一切を任されている。
クジ引きのクジやクジ箱、当せん券などの用意、受付の机や看板の設置作業などはすべて彼らの仕事だ。
「1月10日はえべっさんの元旦です。福男は元旦にえべっさんの福をもらいに行く参拝者のこと。一番福にだけ価値があるのではないことを皆さんに理解してもらいたいです」(平尾氏)
コロナ禍では、普段は走り参りのできない車椅子利用者などを優先的に入れ、本殿までゆっくりと誘導するスタイルで執り行なった。
「コロナ禍で福男選びの本質を再確認できました。この2年間は決して無駄ではなかった。また新しい気持ちで神事に向き合うことができました」(平尾氏)
「開門!」の声は、福を求める人々がいる限り、いつまでも響き渡る。
取材・文/小野雅彦 撮影/古川章
※週刊ポスト2023年1月27日号