こっちは、劇場のスクリーン(細かく穴の空いた銀幕)に合わせたサイズと色合いと音量感で画面を作ってるんだ。手のひら大で分かってたまるか、だ。挙句、飛ばし見されて中身まで勘違いされ、「つまらない」と書き込まれては情けない限りだ。

 映画館で見て、思いにふけるかふけらないかは勝手だが、それが「映画」だ。ふける時間も味わう余裕もない、そんな人間は元から映画館に来ない。映画館の至福を知らないほど不幸なことはない。手のひら大やパソコンでいい加減見してると、審美眼も育つわけがないのだ。

 タイムパフォーマンスなど考えるほどバカらしい人生はない。コスパも同様だ。新幹線のスピードが上がり所要時間が縮まって便利になったというが、大間違いだ。それは、途中の田舎の景色が記憶に残らなくなることだ。旅の味などあったもんじゃない。

 生産性や効率化だけの価値観、ファストライフはますます人の思考を劣化させている。

 クズかマトモかだけで分けられてしまう、このドツボな社会を見れば、一目瞭然だ。そして、映画同志たちよ、怠け者を2時間釘付けにさせるものを作ってくれ。ネット世界に「恐れ入りました」と言わせるものを。

◆文責・井筒和幸
1952年12月13日、奈良県出身。県立奈良高校時中から映画製作を始める。1975年にピンク映画で監督デビューを果たし、『岸和田少年愚連隊』(1996年)と『パッチギ!』(2004年)では「ブルーリボン最優秀作品賞」を受賞。その後も 『黄金を抱いて翔べ』(2012年)、『無頼』(2020年)など、さまざまな社会派エンターテインメント作品を作り続けている。コラムニスト、テレビのコメンテーターとしても活躍中。

井筒和幸監督

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