これまで脳に原因があって発症すると思われていた病気に、実は腸が関与していた──。近年、「脳腸相関」の研究が進み、“腸の乱れは脳の乱れ”といっていいほど、腸は脳の司令官であることがわかった。そうとなれば、このメカニズムをチョ〜使わない手はない。
腸を整えると運動意欲が高まった──昨年12月、米ペンシルベニア大学医学部の研究者らが、科学誌『ネイチャー』に驚きの論文を発表した。研究チームは、走力に差があるマウスの腸を調査。特定の腸内細菌を移植したマウスは積極的に運動するようになり、逆に特定の腸内細菌を抗生物質で一掃したマウスは急に“怠け者”になった。
ここから論文は、マウスの走力を決めるのは遺伝的な要因でなく、特定の腸内細菌の有無であると結論付けた。つまり、特定の腸内細菌がマウスの脳内にある「やる気」を制御する部位を刺激して、「運動したい」という意欲が高まったというのだ。腸内細菌が脳の状態を決定するとは本当だろうか。
「近年、こうした『腸と脳の深いつながり』が世界の医療界で注目されています」
そう指摘するのは、ナビタスクリニック理事長で医師の久住英二さんだ。
「以前は病気になると腸内細菌が変化するとされましたが、近年は腸内細菌こそが病気の原因であるという報告が増えました。さらに最近は、腸内環境が悪い状態が続くと、うつ病や認知症のリスクが高まるという論文が、世界各国の研究機関から発表されています」(久住さん)
腸は「第二の脳」と呼ばれている
脳と腸が密接に関係して、互いに影響を与え合うことを「脳腸相関」と呼ぶ。例えば、強い緊張を感じると腸の働きが悪くなってお腹を下しやすくなったり、便秘や下痢になると気持ちが暗くなったという人は多いはずだ。そうした脳腸相関が生じるのは、腸が脳に匹敵する重要な器官であるからだと、松生クリニック院長の松生恒夫さんは説明する。
「小腸と大腸を合わせた腸の中には約1億個の神経細胞があります。これは約1000億個ある脳の神経細胞に次ぐ数で、腸は『第二の脳』と呼ばれます。
人体は基本的に脳の指令でコントロールされますが、多くの神経細胞を持つ腸は脳の指令に従うだけでなく、独自に動くことができる。それほど重要な腸は、脳と約2000本の神経線維でつながって脳腸相関というネットワークを構築して、相互に影響を与えています」