2025年には認知症の患者数が730万人、MCI(軽度認知障害)も含めると1000万人に達すると予測されている。まさに国民病だが、新著『ぼけの壁』がベストセラーとなっている精神科医・和田秀樹氏は、「脳の健康を保てれば80歳の壁を越えられる」と説く。健康寿命を延ばすにはどうすればいいのか、和田氏が解説する。
脳の老化は怖くない
日本人男性の平均寿命は81.47歳。それに対して、心身ともに自立して健康でいられる「健康寿命」は72.68歳。健康寿命を延ばすうえで大きな障壁となるのが認知症だ。進行すれば介護期間が延び、健康でいられる時間が減ってしまう。
「70歳以降も心身の健康を維持し、80歳の壁を突破するには、“脳寿命”を延ばそうとすることです」
そう語るのは、高齢者専門の精神科医で6000人以上を診てきた和田氏。
「高齢者の脳にとっての大敵は、『認知症』『老人性うつ』の2つです。いずれも歳を重ねると患うリスクが高くなりますが、この2つは似通った症状が見られるため医師でも誤診したり、間違った認識を持ちがちです。正しく理解し、“ぼけの壁”を乗り越えていきましょう」(和田氏、以下同)
それにはまず、「認知症」と「老人性うつ」の本質を知ることが大切だ。そのうえで、対処法を実践していくのである。
「認知症になったら人生お終い」──これは誤解だと和田氏は言う。
「認知症は老化現象の一種で、加齢とともに筋力が落ちるのと同じです。誰しも避けられず、過度に恐れることはありません」
認知症に対する誤解は他にもある。
「『急速に進行する』『徘徊したり、暴言を吐くようになる』『一度患うと何もできなくなる』はいずれも誤りです。個人差はあるものの、老年性の認知症は発症後に10年くらいかけてゆっくり進行し、患者は暴れるよりもむしろ大人しくなっていく傾向があります」
一般的に認知症はまず「もの忘れ」から始まり、そのうちに場所や時間の感覚がなくなる「見当識障害」が生じて迷子になるといったトラブルが増える。その過程で、人によっては生来の性格が先鋭化して短気な人がより怒りっぽくなることもある。
「認知症を患っても、暴言を吐くといった問題行動を起こすとは限りません。これらは『周辺症状』といい、症状は人それぞれ。初期に一般的に見られる『中核症状』は、記憶力や判断力の障害です」