歳を重ねると「薬」が手放せなくなるものだが、健康長寿を保つためにはそのリスクもしっかりと把握しておくべきだ。副作用によって知らず知らずのうちに認知機能が低下してしまうこともあるという。新著『ぼけの壁』がベストセラーとなっている精神科医・和田秀樹氏が解説する。
「薬によって認知機能が低下している場合、断薬することで症状が改善するというのはよくあります。多いのは、抗精神病薬などを飲んでいる人が、血中に残った成分が脳に影響することで記憶力の低下を来たす症例です。
また病院の処方薬で血圧やコレステロール値、血糖値などを下げると活力全体が低下することがある。添付文書に具体的な副作用の記載がない薬でも頭がぼんやりするなど認知症に似た症状が出たり、認知症を進行させることもあり得ます」
薬の副作用による認知機能の低下は、「大きく5種類の症状に分けられる」と薬剤師の長澤育弘氏(銀座薬局代表)は言う。それが「記憶障害」「失語」「失行」「失認」「遂行機能障害」だ。
「記憶障害はいわゆる物忘れです。『昼食に何を食べたか忘れる』『人や物の名前が出てこない』などの物忘れの自覚があるのは生理的健忘で問題ありません。対して、『昼食を食べたこと自体を忘れる』『数分前のことを思い出せない』など体験そのものを忘れ、本人に物忘れの自覚がないのが、病としての物忘れの大きな特徴です」(長澤氏)
失語には、言葉は理解できるが話すことができない「運動性失語」と、話すことはできるが相手の言うことが理解できない「感覚性失語」などがある。薬による認知機能低下により、物の名前が出にくくなるなどの症状が出る場合があるという。
「失行」は、麻痺などの運動障害がないのに日常生活での動作ができなくなること。服が着られなくなる「着衣失行」などがある。「失認」は、目や耳などの感覚機能に異常がないのに物体を認識できなくなることを指す。
「失認には、視力の障害がないのに目の前のものが何かわからない『視覚性失認』、知っているはずの場所で道に迷う『地誌的失見当識』などがあります。また、遂行機能障害は計画を立てて物事を行なうことができなくなることです。例えば、手順に沿って料理することが困難になります」(同前)
大雑把に言えば、これらは周囲から「〇〇さん、最近ぼけてきた?」と見られるような症状一般だと言える。