「機内にお医者さまはいらっしゃいませんか」。ドラマや映画でよく聞くフレーズは、医師たちへの敬意とともに「距離と遠慮」も表している。治療や薬に疑問を持ったとしても、お医者“さま”が言うことを否定するのは気が引けるという人も少なくないようだ。
《年が明けてから、長年悩んでいたひざの痛みが悪化し、医師から「人工関節を入れる手術をしましょう」と言われてしまいました。ですが、以前読んだ『女性セブン』の記事で、人工関節は効果が期待できないうえに痛みが出るケースも多いと知り、不安な気持ちになりました。
できれば別の治療法を試せないかお医者さまに相談したいけれど、いざ診察室に入ると、忙しそうにしている先生を前に話を切り出せません。記事の話をしたら怒られるかもしれないし、どうしたらいいでしょうか》
こんな切実なおたよりが女性セブン編集部に寄せられた。医師とのコミュニケーションに悩む患者は多く、NTTコム オンラインが行った医師と患者間のコミュニケーションに関する調査(2018年)によれば「医師から病気の情報を十分に提供されている」と回答した患者は3割に留まっている。
治療を受けていれば、効果や副作用に関する疑問や不安は尽きない。にもかかわらずなぜ、私たちは黙って医師の言いなりになってしまうのか。
島根大学医学部附属病院 臨床研究センター教授の大野智さんは、日本人特有の“ヘルスリテラシーの低さ”が関連していると指摘する。
「ヘルスリテラシーとは、患者が健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力のこと。各国ごとに数値化して比較すると、日本はヨーロッパや東南アジアに比べてかなり低い。
医療に不安があっても、“相談先を見つけるのが難しい”と感じている人も多く、EUでは1割だったその割合が、日本では6割にものぼりました」
明暗を分けた1つの理由は、医療制度の違いだ。
「イギリスやドイツでは、個人ごとに、病気になったときに最初に受診する『家庭医』を登録する『かかりつけ医制度』が設けられています。つまり、治療や病気で不安に思ったらすぐに相談できる環境にあるということ。手術など大規模な治療が必要な場合は、かかりつけ医が最適な病院や医師を紹介します。
一方で日本は国民皆保険制度のもと、個人のクリニックから大学病院まで好きな病院を選ぶことができる。患者の自由に任されている半面、医師と1対1の関係を築きづらく、相談先が決まらない状況があります」(大野さん)