菅義偉・前首相による「岸田批判」が大きな波紋を広げている。1月10日発売の月刊誌『文藝春秋』2月号に菅氏が岸田文雄・首相を名指しで批判する〈派閥政治と決別せよ〉というインタビューが掲載された。その発言に次々と同調する議員が出てきたことによって、「菅氏が復権に向けてついに動き出した」と見られている。菅氏の動きは以前から水面下で進められていた。彼の真の目的とは──。【前後編の後編。前編から読む】
表裏一体の2人
唐突に始まったように見える菅氏の岸田批判は、実は、周到に準備されていた。菅氏の「派閥政治批判」に呼応して声を上げたのが河野太郎氏、世耕弘成氏、石破茂氏なら、「増税批判」に呼応して動き出したのが、安倍派で菅氏に近い萩生田光一・政調会長。「増税前に解散総選挙を」とぶち上げた人物だ。
萩生田氏はこの1月5日、防衛費増額の財源問題をめぐって自民党に「増税以外の財源について議論する特命委員会」の設置を決めて自ら委員長に就任した。
昨年暮れの防衛増税問題では、高市早苗・経済安保相が最初に反対の声を上げ、西村康稔・経産相や安倍派の反増税派が続いたが、突然、尻すぼみになった。萩生田氏は反増税派が再び岸田批判の火の手を上げる舞台を用意したのだ。萩生田氏は産経新聞1月7日付インタビューでこう語っている。
〈党の議論はどこかで結論を出さなければいけないので、私は「聞く力」はもちろん大事にするけれど、結論を出すという意味で「聞かない力」を発揮すると就任会見で申し上げた。今年も貫きますよ〉
「聞く力」の岸田首相に対し、「聞かない力」を発揮するとの宣言だ。
その萩生田氏と菅氏は外遊でも呼吸がピッタリ。前述の菅氏がベトナムを訪問した時期、萩生田氏もアジア各国を歴訪した。
「特命委員会は萩生田氏が委員長、顧問には世耕氏が就任した。2人とも菅さんと同じく岸田首相が突然決めた防衛増税に反対の立場で、財源は国債で賄うべきだと主張している。特命委員会の議論が始まれば岸田首相は尻に火がつく」(増税反対派議員)
案の定、16日に開かれた特命委員会の幹部会では、増税批判の急先鋒の西田昌司氏(安倍派)が「防衛増税ばかりが報じられ、結果的に防衛費増強に反対する人が増えている。政府側の説明は間違っている。増税ではなく国債発行でよい」と気炎を上げた。