治療や薬に疑問を持ったとしても、医者が言うことを否定するのは気が引けてしまうこともあるだろう。患者が医師の言いなりにならないためにはどうすればいいのか。医師との上手なコミュニケーションの取り方を探る。
受けたくない治療を断ることは、自分の体を守ることにつながる。では、どう医師に伝えるべきなのか。東京医療センター内科医長の尾藤誠司さんがアドバイスする。
「まず意識すべきは、否定から入らないこと。医師は治療を提案するとき、すでに副作用と効果を検討して、効果が上回ると判断しています。そのため『この治療や薬は問題があるんじゃないか』と言われると『大丈夫です』という答えしか期待できない。
伝えるときは、『痛みに弱いので、手術が気がかりです』『初めての薬だし、副作用が気になってしまう性格だから、不安があります』などと、気持ちを前面に出した方がいい。個人の受け止め方について、医師は否定できません」(尾藤さん)
雑誌で見たことやインターネットを通じて知った情報は、医師に話しても問題ないのだろうか。尾藤さんが続ける。
「そうした情報を相談すること自体はかまいませんが、言い方には気をつけましょう。『ネットに書いてあったから、この薬はのまない』と自分の意見を主張するのではなく、『ネットに書いてあったので、心配になりました』と相談を持ちかけるのがベター。言い方で印象が変わってきます」
島根大学医学部附属病院 臨床研究センター教授の大野智さんも、治療に疑問を持ったときこそコミュニケーションの取り方が重要になると指摘する。
「私も患者として病院にかかるときは気を使います。以前、じんましんでステロイドを服用していましたが、しばらく経っても効果が見られないので、やめたいと思いました。とはいえ、医師には『のみたくない』とは伝えません。『いつまでのめば効果が出ますか?』と質問したところ、こちらの意図を察して薬を替えてくれました」
しかし、いざ診察室に入って医師と対峙すると緊張してうまく話せない人も多いだろう。多くの医師は「メモを使って伝えた方がいい」と口を揃える。
「メモで可視化すれば、悩みを整理できるし、伝えるときに失敗しにくくなります。不安のあまり感情的になって問題の本質が見えなくなっている人は意外と多い。患者自身が悩みを整理できていないと、解決策を探るのが難しくなります」(大野さん)
まずは、不安に思っていることや疑問を紙に書き出してみること。そこから優先順位が高い2?3個を選んで、相談用のメモを作成する。
「メモを作るときは、相談した後で自分や主治医が書き込める余白を残しておくのがコツです。診察日は、医師に『質問があります』と伝えて、用意したメモを読みあげるだけで大丈夫です。時間がなければ『お返事は次の外来でいいです』と伝えて、メモを渡すだけでもかまいません」(大野さん)
メモ作りと並行して行いたいのは「Why(なぜ)」と「How(どうなりたいか)」を整理すること。
「たとえば薬を減らして健康食品やサプリメントを取り入れたいのなら、『なぜそう考えたのか』『使うことによってどうなりたいのか』を考える必要があります。
具体的に言えば『治療で体重が減ったから、健康食品で充分な栄養を摂りたい』『抗がん剤で免疫力が下がると聞いたから、免疫力を高める成分をサプリメントで取り入れたい』という具合です。事情によって、医療者側の対応方法も変わってきます。健康食品を使わずに解決できるかもしれません。なぜそう思うのかを医師から聞かれたら答えられるようにしておくといいでしょう」(大野さん)
治療において何を優先したいかを伝えることも重要だ。
「同じ病気であっても、『延命しても寝たきりは嫌』『痛みをいまの半分にしたい』『3か月後に仕事復帰したい』など優先する事柄によってアプローチが異なります。個人の価値観を伝えれば、医師は提案しやすくなります。
薬も同様で、薬代の負担が大きくて減らしたいのならば、『1日3回のいまの薬は私の生活だと支払うのが難しい』と伝えるのがいいでしょう」(尾藤さん)