この冬、「2人の織田信長」が注目を集めている。演じるのは映画『レジェンド&バタフライ』に主演する木村拓哉と『どうする家康』に出演する岡田准一だ。2人の「新しい信長」について時代劇研究家のペリー荻野さんが解説する。
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27日公開される映画『レジェンド&バタフライ』の木村拓哉、放送中の大河ドラマ『どうする家康』の岡田准一。今シーズンは、タフなふたりの「新しい織田信長」に注目が集まっている。
その「新しさ」は、どこからくるのか。それは、信長が向き合う相手だ。
信長といえば、戦国の覇者、魔王、ブラック企業織田家の若社長など、さまざまな言われ方をしているが、『レジェンド~』で向き合うのは、正室の濃姫(綾瀬はるか)だ。
濃姫は、美濃のまむしと呼ばれる有力者・斉藤道三の娘で、信長とは絵にかいたような政略結婚だった。実際は史料はほとんど残っておらず、実は正式な名前もいつどこで亡くなったかも不明。若くして離縁されたとの説もあり、謎に満ちている。そのため、1973年の大河ドラマ『国盗り物語』の凛とした松坂慶子、1992年の『信長KING OF ZIPANGU』のほんわかした菊池桃子、2014年『信長協奏曲』の同級生のような柴咲コウなどなど、中には1983年の大河『徳川家康』の藤真利子のように、本能寺の変で薙刀を振り回し、敵と刺し違えた濃姫もいる。性格や生涯もさまざまに描ける濃姫と信長の関係を軸にしたところが、今回の映画の肝なのだ。
綾瀬濃姫は、信長に対面早々、「愚かな殿方は嫌いでございます」「お前様のようにうつけ、いつでも寝首を掻いたるわ」と言い放つ。最初の夫婦喧嘩では、撮影中に着物が破れたという。喧嘩というより、アクション活劇。なんともすさまじい。乗馬、武術、狩り、山歩きもどんとこい。弓や槍を構えても様になる。こんな体育会系の濃姫は見たことがない。一方で、どこか可愛いところがあるのも、綾瀬濃姫ならではだ。
思い出してみれば、綾瀬は映画『ICHI』では盲目の居合の遣い手、大河ドラマ『八重の桜』では、鉄砲をぶっ放す会津の武家娘、ファンタジー長編『精霊の守り人』では、短い槍で強敵と戦う女用心棒、ドラマ『奥様は取扱注意』では、乱暴者たちを余裕で倒す元スパイと強烈な役をやってきた。この作品では、体当たりで激しい信長になりきる木村をガシッと受け止め、“体育会系濃姫”という新たなキャリアが加わったのである。