大相撲1月場所では、東前頭13枚目の琴勝峰との千秋楽相星決戦を制した大関・貴景勝が12勝3敗で優勝を決めた。昨年の11月場所での同点優勝(巴戦で阿炎に敗れ準優勝)に続く優勝だったが、日本相撲協会審判部が横綱昇進を諮る臨時理事会の招集を八角理事長(元横綱・北勝海)に要請することはなかった。その背後には、様々な思惑が垣間見える。
審判部の佐渡ヶ嶽審判部長(元関脇・琴ノ若)は招集要請しなかった理由について、「ハイレベルの優勝ではなかったから」と説明。そのうえで、来場所の綱取りについても「まだなんとも言えない。番数もあるし、相撲内容もある……」と明言しなかった。
横綱審議員会の内規には横綱昇進の条件として「大関で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績を挙げた力士」とあるが、これまでは「準ずる」という言葉を最大限に利用してきた経緯がある。2014年3月場所後に昇進が決まった鶴竜(現・鶴竜親方)は今回の貴景勝と同じ、「同点優勝→優勝」だった。2017年1月場所後の稀勢の里(現・二所ノ関親方)は「単独2位→優勝」で、2021年7月場所後の照ノ富士は「優勝→単独2位」で昇進した。
だが、今回は審判部だけでなく、八角理事長、横綱審議委員会が揃って昇進の空気すら見せず、スポーツマスコミも一切盛り上げなかった。たしかに、平成以降に誕生した11人の横綱のうち、直前場所で12勝3敗だったのは三代目若乃花だけ。鶴竜、稀勢の里、照ノ富士も直前場所は14勝1敗だった。審判部長の言葉を素直に受け取れば貴景勝がハイレベルの優勝ではなかったということなのだろうが、若手親方のひとりは昇進が俎上に載せられなかった理由について「安定性を欠く押し相撲だから」と話した。
「大関ならカド番を繰り返せば残れるが、最高位の横綱に上り詰めればあとがない。押し相撲だけの貴景勝は苦手にしている力士が多く、ぶちかましとのど輪を得意とした琴櫻さんのように短命横綱となる可能性が高い。協会としては横綱には右四つからの投げや寄りを得意とする朝乃山のような力士を昇進させたいのだろう。両膝を痛めている照ノ富士はいつ引退してもおかしくない。横綱不在になる可能性もあるが、短命横綱をつくるよりも、もうひとり大関を誕生させることを優先したいのではないか」