特殊メイクの第一人者である江川悦子氏は近年ではNHK大河ドラマのメイクも担当。二〇二〇年の『麒麟がくる』では、斎藤道三(本木雅弘)のリアルな坊主頭を作り上げた。それはいかにして作られたのか、特殊メイクの第一人者・江川悦子氏に、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が聞いた。
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江川:道三は、「青剃り」の色のつけ方で工夫しました。かつらの下地にラテックス製の羽坊主キャップで頭を覆った後、細かく彩色して頭皮をリアルに表現しますが、その場合、若い人だとしっかり青く入れるんです。そしてだんだん歳を重ねて毛が抜けた人というのは頭皮もほぼ肌色ですよね。そういうふうに色を変えます。年齢が上がるほど、より肌色っぽい感じで青剃りは少なくするとか、青剃りの色のつけ具合で表現しています。
──すごい! そこまで考えられているんですね。
江川:そうしないと違和感が出るんです。みんな同じように青い色をつけてしまうと、年齢がいってる場合は全く合わないんです。そういう色のつけ方が、結局はリアリティっていうことになりますから。
──同じ坊主頭でも、人物の年齢や状況で毛根のあり方を変えているわけですね。
江川:若いのに毛根がないと弱々しかったりして、違和感があったりしますから。でも、弱々しい病気っぽい役で坊主だったりする場合は薄くてもいいかなとか。その役と連動するものもありますね。
──坊主キャップは俳優さんの頭の形に合わせて作られるのですか?
江川:すっぽり覆って首ぐらいまで貼るので、後頭部は多少こちらで作ります。盆の窪あたりの凹み、でっぱりの部分は少し作ってあるんですよ。あまりに丸っぽい、ツルンツルンの頭だと、それはまた嘘っぽくなってしまうので。
そういう部分もできるだけリアルにさりげなく表現しています。といって、あんまりぼこぼこするとおかしいので、そこはやりすぎない程度にやっています。
その一方で、すごくゴツゴツした感じのキャラクターがいたときは、わざとそこをシャドーとハイライトで目立たせてみたりとか。