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米NYの「恋愛推奨」老人ホーム“入居者が部屋を自由に行き来できるポリシー”ができるまで

コロナ前は入居者同士の「プロム」も開催されていた(2016年撮影。写真/AFLO)

コロナ前は入居者同士の「プロム」も開催されていた(2016年撮影。写真/AFLO)

 日本ではシニア世代の性にまつわる話はタブー視されがちだ。しかし、それが正しいスタンスなのだろうか。いくら“見ないふり”をしたり、無理に抑え込もうとしても、高齢者施設では入居者による介護スタッフへのセクハラや、入居者間での性行為がトラブルに発展することもある。

 そうしたなか、アメリカには「セックスと恋愛推奨」をポリシーに掲げる高齢者施設がある。米ニューヨーク市郊外を訪ねた──。

 マンハッタンから車で約40分。ブロンクス区北西部、ハドソン川沿いのリバーデール地区にある「ヘブライ・ホーム」には、500人以上の高齢者が入居している。広大な敷地に4~5階建ての建物が何棟か分かれて並び、さながら大規模団地を思わせる佇まいだ。

 長年、アルツハイマー型認知症患者のケアに注力し、独自のノウハウを持つという同施設CEOのダニエル・レインゴールド氏にセックス推奨ポリシーについて尋ねた。

「まず言っておきたいのは、the sexual expression policy(性に対する方針)はカップルだけのものではなく、異性愛者にも同性愛者にもすべての人に適応するポリシーだということです。相手がいようがいまいが、誰もが誰かと親密になる権利があります。そのうえで、施設入居者間での恋愛やセックスを邪魔しない。入居者のカップルは、自由に部屋を行き来できるし、泊まることもできます」

 同施設では入居者同士が出会う“きっかけづくり”にも力を入れてきた。

「コロナ前には入居者を招待してプロム(ダンスパーティー)を開催していました。デートを推奨する『G-Date(Grandparent Dating)』システムでは、スタッフが施設内で出会う機会の少ない男女にお似合いの相手を探して紹介し、レストランでのランチデートを楽しんでもらいます。コロナ禍でここ数年はイベントを控えていますが、日常生活が戻ってきているのでまた再開したいですね」(同前)

 出会いだけではなく、性行為にまつわる問題があれば医師の相談も受けられる。男性にはED治療薬を処方し、女性の“潤い不足”の問題にも治療を施すなど、ケアは万全だという。

 現在、ヘブライ・ホームのカップル数は10組ほど。コロナ禍でイベントが中止され、カップル数が減ったというが、そもそも、なぜこのようなポリシーを掲げているのか。

「今から25年前、一人の看護師が『あるカップルが部屋でセックスをしていた。どうすればいい?』と私に尋ねてきました。『忍び足で部屋を出て、そっとドアを閉めなさい』と答えると、止めるべきだと考えていた彼女は驚きました。

 スタッフそれぞれで考え方が違うと知ったのですが、そこで私は、誰かと『親密な関係=肉体関係』を持つことは人権の一つで、それはたとえ高齢で施設に入居していても守られるべきだと悟りました。他の施設ではトラブルを恐れて恋愛やセックスを推奨していませんが、私たちの考えは全く違う。彼らは大人であり、ポリシーに同意する人には肉体関係を持つ自由があると考えています」(同前)

 他人から触れられたくない入居者がいたら、触れられないように守ることも、同ポリシーの持つ役割なのだという。

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